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枇々木聖

フリーランスの錬金術師です。プログラムを書いたり、占いやったりして生活しています。古代の資料や伝説、神話が好きなのでメモ代わりにもなるデータベース&ブログシステムを作ってみました。

投稿記事

13世紀の金属、鉱物観 前篇 : 原典で辿る錬金術の歴史 講義レポート 中世ヨーロッパ編(3)

錬金術


関連項目: 硫黄 水銀 ロジャー・ベーコン

ロジャー・ベーコンの著作、Radix Mundiから金属と鉱物に関するセクションを取り上げます。内容が多いため二回に分けて掲載していきます。

Roger Bacon (1219-1292)
from the Radix Mundi
Chapter 37 : Of the Original of Metals, and Principles of the Mineral Work.

このチャプターの概要

金属の起源と、自然による働きの原理についてが19段落に渡り解説されています。13世紀において考えられていた思想なので、相変わらず現代の科学から考えると意味不明です。
しかし、彼らなりのロジックや体系をもってそれを説明しようとしてことは見て取ることができます。また、この時代は引き続き始原の元素や神という存在に対する信仰が強いのでそのことも読む際に頭に入れておいたほうがよいでしょう。

記述については引き続き曖昧でぼんやりしていますが、アラビア時代に比べると飛躍的に明確な表現が多くなっていて読んでいてもわかりやすい。翻訳もラテン語から英語への訳なので翻訳プロセスは1段階。そのことも読みやすさの一因になっていますね。

アラビア時代からの変化や進化も感じながら読み進めていただけると幸いです。

四大元素の特徴と変化

自然の体は完全であり不完全であり、4つ元素が1つにまとまっている。すなわち火、空気、大地、水が神(God Almighty)によって一体に結びつく
大地と水は物質性、可視性を与える
火と空気は精気と不可視の力を与える
四つの元素が一体になることで他の物体になる
四大元素の変化はalter=部分的変化、change=全体的変化の二種類がありうる

アラビア時代に比べ、少し詳しい設定が追加されていますね。確かに大地や水は目に見えて触れることもできますが、火や空気は形がはっきりしません。空気はもちろん、火は視覚的にはみえるものの触れられるわけではないので、こういった考えに至ったのも理解できなくはないです。
わりと唐突に神によって~と出てくるのがこの時代らしいですね。オッカムの剃刀を適用するなら、その部分は省くべきという判断もできるでしょうが・・・。ちなみにオッカムの剃刀のもとになった概念を唱えたオッカムのウィリアム(オッカムは出身地)は、ロジャー・ベーコンよりやや後ろの時代のフランチェスコ会士です。オッカムの存命は1285-1347年なので、まる一代後ろの世代になりますね。
この時代の記述をみたオッカムが「いや、その説明は冗長では?」と考えたのかもしれません。

同質性と根源性の要求

多様ではだめで、単一の性質ではないといけない。作用と情熱を生み出せない
本性(性質)が一致する事物でなければ真の生成はない by アリストテレス
ニワトコの木や樫の木は洋ナシの実を結ばない
茨から葡萄を得ることもできない
アザミからイチジクの実はつかない
そのものの中に秘あるものからしか、秘を得ることはできない
つまり、石、塩、その他の異質なものから引き出すことはできない
また、ミョウバンが入ってくることもできない
テオプラストス曰く、哲学者は四大元素の場を塩(Salts)やミョウバン(Alums)で誤魔化すことはできない 鉱物の根源より取り出さなければいけない
物質は根源から完成させねばならない

様々な例を出して述べられていますが、性質が同じものでなければその働きができないので、根源的なものを取り出したいのであれば根源的なものと同質なものから取りだしなさいと言っているわけですね。ずっと出てきている硫黄と水銀に繋がっていくわけです。
また、塩やミョウバンへの言及も出てきます。どちらも他の物質への影響が強いものなので古代から重要視されてきたのでしょう。テオプラストスはギリシャ時代の学者(アリストテレスと同じくらい)なので、少なくともその頃には理解されていたわけです。

同じような内容を何度も繰り返し言っているだけに、よほどこの同質性と根源性は重要と考えられていたのでしょう。原典を読むことで、そういった構成からみた文脈も感じ取ることができます。

金属の発生

硫黄と水銀、すわなち鉱物の根源であり自然の原理であるこれらを大地の鉱山や大きな穴で自然が自ら生成する
それは山の孔や脈を流れるViscous water(粘性の水)である 体と実体(本質)がくっついた蒸気、雲が立ち昇る 立ち昇ったそれらは同質の大地へと反射する そして1000年かけて物質は固定される

四大元素と同質性の話に続いて、金属の発生原理についてが書かれます。ここはアラビア時代から大きく変わらず、硫黄と水銀が自然の大地で育まれ鉱物となりますよという話ですね。
もちろん、その際に一度蒸気となりその後固定されるというプロセスが想定されていました。具体的に1000年といった数字が出てくるなど、少し踏み込んだ内容にはなっています。


アラビア時代の知恵を継承しつつ、より詳細にしていこうという意志がみえてきました。ただ、数百年の時が経ってもあまり進展はしていないようにも見えます。現代のように情報伝達が高速ではないため致し方ない部分があるのでしょう。 後編に続きます。

オーディンが語る人生の教訓(1) : 原典で楽しむ北欧神話

北欧神話


関連項目: オーディン

各地の神話や伝説には、教訓めいた内容が含まれるものがたくさんあります。特に宗教と密接にかかわるところで多いのですが、そうでない神話でも度々現れます。

ここで紹介するのは北欧神話の古エッダ詩に含まれる一つ。

原題はHávamál。カタカナに直せばハーヴァマール、となるでしょうか。

日本語訳としては「高き者の言葉」「高き者の詩」「オーディンの箴言」などと言われます。

málは詩や言葉を意味する語で、他のエッダ詩でも名称としてよく使われています。 Hávaは高くにある者、つまり最も高い位を持つオーディンを指しているわけです。

この詩はオーディンが様々な訓示を人々や対話相手であるロッドファーヴニルという者に伝えます。

全部で164節の長い訓示詩であり、当時の価値観を伝えるさまざまなメッセージが含まれるのです。今日はそのうち一つをご紹介しましょう。

財産は滅び、身内のものは死に絶え、自分もやがては死ぬ。だが決して滅びぬのが自らの得た名声だ。
財産は滅び、身内のものは死に絶え、自分もやがては死ぬ。だが決して滅びぬものを私は一つ知っている。死者すべてをめぐって取沙汰される評判だ

エッダ-古代北欧歌謡集 | 谷口幸男訳 p.32-33 オーディンの箴言 より

財産や名誉に関する教訓であり、当時の価値観が伝わってきます。形のある財産、親族、自分もやがて亡くなるが評判や名声は残るという考えは名誉を最上の価値とする文化によくあるものです。

現代とくに日本では主流ではない考え方ではないでしょうが、そういった人々が古代のスカンディナビアにいたのです。

しかし決して滅びることがないかは置いておき、少なくとも1000年以上経った現在でもその名が残っている人がいることは確かです。そういった点でこの教訓は確かに意味があったという事になるでしょう。

原典のリズム感を感じよう

さてこの節、日本語だとあまりリズム感が無いだらっとした文章になってしまっています。ですが元は韻文詩なので、アイスランド語だと非常にリズム感のあるいい文というか詩なのです。

具体的にはこのような詩です。

Deyr fé,
deyja frændr,
deyr sjalfr it sama,
en orðstírr
deyr aldregi
hveim er sér góðan getr.


Deyr fé,
deyja frændr,
deyr sjalfr it sama,
ek veit einn
at aldrei deyr:
dómr um dauðan hvern.

アイスランド語のHávamálより

アイスランド語が読めなくても気にしなくて構いません。

字と節でリズム感が伝わってこないでしょうか?日本語に訳されたものとはまったく違った雰囲気なのがわかると思います。昔の詩人はこれにリズムとメロディをつけ、語り継いできたのです。

前半部分が同じ節を繰り返すのは他の部分でもよくみられる手法で、より強調したり趣を出すためのテクニックなのかと思います。

並べるとよりわかりますね。

「財産は滅び、身内のものは死に絶え、自分もやがては死ぬ。」
「Deyr fé, deyja frændr, deyr sjalfr it sama, 」

当時の発音は失われているため確かなことはわからないのですが、無理にカタカナにするなら「ディェ フェー ディャ フラェンズル ディェ スャルフル イ サマ」とかでしょうか?おそらくこの時代は「j」がヤ行とほぼ同じ発音のはず。Jesusをイェズス、Jerusalemをイェルサレムと読む時の発音ですね。

どうでしょう?これだと詩っぽい感じがしませんか?

そして最後にひとつ豆知識を加えておきましょう。

Deyr féの、これは家畜や財産を意味する言葉なのですがこれはルーン文字の1文字目フェフと関係があります。


この文字ですね。ルーン文字の一番目で名前はfehu(フェフ)、意味はそのまま家畜や財産です。これはゲルマン・ルーンで、スカンディナビアでは別のものが使われていました。


こちらがスカンディナビアすなわち北欧で使われていたルーンで、名前はfé。意味はもちろん同じく家畜や財産です。fはあまり形がかわりませんが、字によってはほとんど別の形のものがあります。

このように、原典をみるといろいろな当時の文化との関わりが発見できます。ただ日本語訳の文章を読んだり、記号的に神話をみるだけではなくこういった部分まで楽しんでいきたい。そう考えています。


いかがでしょうか?少し古臭い価値観ではありますが、現在の私たちにも示唆を与えてくれる言葉です。 今後複数回にわたって、この詩よりいくつかフレーズを紹介していきますのでお楽しみに。

スチームパンク風アクセサリ自作はじめの一歩

スチームパンク

今日は少し趣向を変えて、工作的なお話をしていきます。タイトルではスチームパンク風と書いてますが、本人そのつもりながらあんまりテイスト出てないかもしれません。 神話や物語との関係は薄らとしたものですが、幅広く色々な視点で見て頂きたいという名目のもと、やります。主に著者の趣味でもありますがお許しを。「物語をよりアクティブに楽しむ」ひとつの事例とみていただければ。

エクストリームな方々は革や金属からきちんと作っているわけですが、最初からいきなりそれをやるのは大変です。なのではじめの一歩として、素材の組み合わせでできる自作アイテムの事例を紹介したいと思います。

作るのはこれ


以前の記事でも書きましたが、ビスマス結晶を使ったアクセサリー。結晶のエネルギーを利用して動く機械をイメージ・・・しています。このアイテム、見た感じでもわかるかもしれないですが特別な道具や加工をほとんど必要とせずさくっと作れるのです。
これそのものを作ろう!という話というより、こういうやり方でも作れるのか、といった工法アイデアの事例だと思ってください。

素材を準備する

まず、材料を用意します。


ビスマス結晶のさざれ。これはデザインフェスタで手に入れたものですが、石華工匠さんが出典しているなら他のイベントでも手に入るはず。ほかは吉祥寺の匣ノ匣さんに委託があるかもしれません。


時計部分に使うアンティーク風時計。古着屋とかなら700~1000円とかで売ってます。完成品とこの時計は違うデザインですが系統は同じです。


試験管。東急ハンズとかに行けば50円とかで買えます。コルクも一緒に。


金具類。これも東急ハンズとかで。


最後に重要なこれ。補修用の粘着付合皮シート。強度、粘着力があってハサミで切れる便利なヤツです。

基本の構成は、ベースとなるアイテムとそれを繋ぎ合わせるための接合材の組み合わせです。今回の場合、ベースはビスマス結晶とアンティーク時計。接合材は残りの全部ですね。日々の生活でベースに使えそうなものを見つけて頭に入れておけば、たまにアイデアが浮かんできます。
接合材は東急ハンズぶらぶらすると色々見つかるのでそこからインスピレーションを得るといいんじゃないでしょうか。

素材を組み合わせる

さてでは実際に作っていきます。といっても部品を組み合わせるだけなのですぐ終わります。1時間かかることはないでしょう。


まず、金具をこの形に組み立てます。後でやってもいいのですが、リングが小さくカンを通すために結構な力が必要なため先にやっておきます。指や爪では辛いのでマイナスドライバーを差し込んでこじ開けます。


次に、革補修テープをカットします。先ほどの四角い金具に通せる幅で切り落とし。この革補修テープは柔軟性があるので、端からカットしようとするとぐにょっと歪んでしまいます。なのでまず中心部分から外側へ向かって半分カットし、その後反転して中心からもう片方の側までをカットします。
写真ではメモリがある部分を当てていますがカッターを当てるのは逆側がたぶん正解です。。。


カットできたら、テープを使って試験管に金具を固定します。貼る位置は試験管にあるプリント部分が隠れるところにしてみました。まずはテープだけ貼っていきます。


テープがちょうど一周する手前あたりで金具を入れていきます。


このような形で、金具をテープで固定します。距離をあけているのはこうしたほうが釣ったときに安定するかなと思ったため。力をできるだけ分散させようという狙いです。
あとはもう一周貼りまわして、二つの金具の間で終わるようにテープをカットします。これでカット端が表から見えなくなります。


入れ物部分はこれで終わり(!)なので試験管にビスマスのさざれを入れていきます。色や形がバランスよくなるように考えつつも、ざらっと入れてしまってよいでしょう。 十分な量が入ったらコルクで栓をします。これでビスマス結晶入りの試験管パーツが完成。


アンティーク時計のベルトを試験管パーツの金具に通します。今回はアンティーク時計を使ってますが金具でほかのものとも組み合わせられます。バッグにつけるとか、ネックレス的に使う事もできなくはないかと。


少し寂しいので1.6mmの真鍮ワイヤーを使ってアクセントつけ。ワイヤーは長めに切ったうえで、両端を手で持って適当にぐにゃぐにゃ。最後にニッパーで余分な部分を切りおとします。 ワイヤーの片側は試験管のコルクに固定、ピンバイスを使ってワイヤーより少し小さい穴をあけることでスカスカしないようにしました。

これにはもうひとつ効果があって、試験管パーツの固定にもなります。金具にベルトを通すだけだとふらふらしてしまうのですが、真鍮ワイヤーをはめておくことで形がしっかりします。アルミ線と比べると真鍮ワイヤーは同じ太さでもかなり固いので、十分固定に使えます。

これで完成、大掛かりな道具もなくアイテムができました!

ポイント

【針金、ワイヤーを駆使すれば結構どうにかなる】
針金、ワイヤーは加工しやすいうえに太さがある程度あれば部品の固定にも十分使えます。

【革補修テープは便利】
これがとにかく便利。革ソファの補修などに使うものなので強度があり、伸縮性がある。 色も複数あるし、革意外にエナメルっぽいものもある。スチームパンク風にしたいときはダークブラウンかブラウンの革テイストしか使うことはないですが。売り物はできないですが、自分で使う分には問題ないでしょう。見えない裏部分に貼って補強もできます。

【金具類はアイデアの宝庫】
各種カン類、ナスカンなど東急ハンズにいけば色々な種類のものが売っています。できれば通販より物が並んでいるショップに行ったほうがインスピレーションが湧くと思います。


いかがでしょうか?それほど準備しなくても小物が作れるのがわかったと思います。簡単なものでも手で何かを創るのは楽しいものです。より深く物語の世界を楽しみましょう!

ロジャー・ベーコンと「Radix Mundi - 世界の根源」 : 原典で辿る錬金術の歴史 講義レポート 中世ヨーロッパ編(2)

錬金術


関連項目: ロジャー・ベーコン

中世ヨーロッパ編、まず扱うのは13世紀の学者ロジャー・ベーコン。彼はフランチェスコ会の修道士であり、当時のあらゆる学問に通じていました。その範囲は幅広く、学術言語、数学、自然哲学、アリストテレス哲学、錬金術、占星術、はては光学まで。

また、彼は先見の明がとてもあり未来に登場するであろう様々な技術を予見していました。それは自走可能な船舶や戦車、飛行機械、潜水艦や光学機械まで広がっており、もちろん当時の技術では実現不可能なものばかりですがその見通しは特筆たるものでしょう。

ただ、彼が実際に各学問の進歩に対してどれだけの貢献をしたかは定かではありません。研究のオリジナリティについても同様で、その博学さで当時の学問の集大成ともいえる書を残していますが学問上のイノベーションにどれだけ寄与したかははっきりしていないようです。

自然と術の関係

ロジャー・ベーコンたち当時の学者の思考にひとつ頭に入れておく点があります、それは自然と術の関係です。この術、というのは錬金術も含めた彼らが成そうとしていた世界に働きかけるための術です。文中ではArs(アルス)もしくはArt(アート)などと記述されることが多いですね。アラビア編でも、よく文中で"this Art"といった言葉が出てきました。

さて、術と自然の関係についてはこのように考えられていたようです。

  • 道具として自然を用いる術は、自然の力より強力
  • 自然と術は相互補完的で、潜在的に協力的

後者は、講師いわくアリストテレスが論じた可能態(デュナミス)的なもとの同一であろうとのことです。アリストテレスは現実の事物が存在するのは、その元となる可能態が発展した結果だと考えていました。この時代の学問はアリストテレスの思想を継承しているので、自然とそういった概念が含まれています。

Radix Mundi - 世界の根源

講義では、ロジャー・ベーコンの著作の一つ「the Radix Mundi」が取り上げられました。ここで扱われるのは当時の世界すなわち自然界に対する考え方です。

  • アリストテレスの金属の起源に関する理論
  • ゲーベルの硫黄 - 水銀理論
  • 四大元素の理論

このような思想がアラビアを経由して13世紀ヨーロッパに浸透していくことになりますが、彼の著作はまさにその先駆となるものだったのでしょう。


次回はRadix Mundiから金属の起源と鉱物の働きの原理についての章を取り上げます。この章は、当時の学者が金属や鉱物が世界においてどのような存在であると考えていたかが伺える内容になっています。

12柱のアース神 : 原典で楽しむ北欧神話

北欧神話


関連項目: オーディン トール バルドル ニョルズ フレイ チュール ブラギ ヘイムダル ヘズ ヴィーザル ヴァーリ ウル フォルセティ ロキ

今日は北欧神話において重要な十二柱の神々についてお話しましょう。

この神々はすべてスノッリのエッダ、ギュルヴィたぶらかしにおいて言及されています。原典はっきりとこういう節があります。

「アース神は十二柱おられるのだ」

エッダ-古代北欧歌謡集 | 谷口幸男訳 p.241 より

オーディン

最高かつ最年長の神であり、すべてのものを支配している。他の神も力はあるけど基本的にはオーディンに仕えている、それくらいに偉い。別名については以前の記事を参照。エピソードは数々あるので、他の機会に書くこともあるでしょう。

トール

オーディンを除いた神々の中で一番偉い。アースのトール(アーサトール)、車のトールとも呼ばれる。ミョルニルという槌を持って巨人を薙ぎ倒す暴れん坊。

バルドル

最もすぐれており、美しく輝いて光を発しており、最も賢く雄弁でやさしい神とされる。なんて神々しい。白い植物はバルドルのまつ毛になぞられらえる。なぜなら白く美しいものといえばバルドルだから・・・とひどいポエミィ感。 でも、無敵だからってみんなで集まって物ぶつけて遊ぶのはどうかしてると思う。そのせいでひどい目にあうし。

ニョルズ

三番目の神で、天のノーアトゥーンに住んでいる。
ん?あれ・・・ニョルズですでに四柱目のはずでは・・・?
ニョルズはアース神ではなく、ヴァナヘイム出身だが人質交換でアース神のもとへやってきた経緯がある。のでニョルズはアース神じゃないんだろうか?でも冒頭で「三番目のアース神はニョルズと呼ばれ・・・」と言われているんだよなあ。

フレイ

ニョルズの息子で、最も有名な神らしい。最も○○が多すぎてそろそろ相対的な位置がわからなくなってきましたね。神話にはよくあることですが。

チュール

最も大胆な神で、強さや勇気の象徴とされている。フェンリスウールヴ(フェンリル)に足枷をはめようとした時に腕を食いちぎられてしまったので、片手しかない。

ブラギ

知恵があり雄弁、詩の神様とされる。

ヘイムダル

偉大で神聖な神、ビフレストという橋の近くで見張りをしている。ギャッラルホルンというラッパを持ち有事の際に知らせる役目を持つ。九人の乙女の子、九人の姉妹の息子とされているが、当然そのままの意味なはずはなくなんらかの比喩。

ヘズ

盲目だが力の強い神。唆されて前述のバルドルを殺害してしまう。

ヴィーザル

無口で、厚い靴を履いている。トールに次いで強い神で、あらゆる戦いで頼りにされる。 このあたりから記述があっさりしはじめる。

ヴァーリ

勇敢な名射手、オーディンとリンドの子。

ウル

トールの継子で、名射手かつスキーヤー。スキーヤーの神が出てくるあたり北国の神話らしい。

フォルセティ

神々の調整者で、グリトニルという館でもめ事をさばいている。前述のバルドルとナンナの子。

ロキ

アース神の中傷者、あらゆる嘘の張本人、神々と人間の恥とか散々なDisをされる神。文は繋がっているものの、「アース神の仲間」という表現が微妙。これはアース神の内側なのか、外側なのか・・・。
性質がひねくれていて行動はひどく気まぐれ、悪知恵は一流と稀代のトリックスターらしい評価。


さて、一通り説明がおわりました。

問題です。ここまで何柱の神様が出てきたでしょうか?

・・・

はい、十三柱+1(ロキ)ですね。

十二柱って自信満々に言ってたのはどこにいったんでしょう?これが分散した文献の話ならわかります。でも違うんです。この話、スノッリが一人で書いたはずの文献で、しかも連続した話の中なんです。

どういうことなの・・・。

まず、ロキは除外してもいいとしましょう。それでもまだ一柱余ってる。

1. バルドルを除外する

文中の表記に従うなら、これが妥当。ニョルズが三番目だと書いている以上、バルドルはなかったものとする?でもそれにしては重要なんですよねバルドルの存在は・・・。

2. ニョルズを除外する

ニョルズはもともとヴァンル神なので、アース神のカウントにはやっぱり入れないことにした? 文中でもアース神である、という表現とアース神じゃない、という表現が入り混じっているので解釈によってはこの説はありえる。

3. 十二柱って言いたかっただけ、もしくはただのミス

この可能性も捨てきれない・・・。実は十三柱いたけどうっかり十二と書いてしまったとか。


スノッリは数百年前に亡くなっているし、真実は闇の中ですね。

もしかしたら、訳の問題で古代アイスランド語ではまた違うのかもしれません。 新しい情報が入ればまたレポートしますが、まずは「あ、神話って原典だとこんな無茶苦茶でいいかげんな状態なんだ、それでいいんだ」という点を知ってください。

そう思えば、気楽に楽しめると思います。自分なりの妄想解釈を付け加えるのも素晴らしいですね!

※この記事にある記述は全て「ギュルヴィたぶらかし」を参考にしています。他の詩ではまた違った物語が繰り広げられることになります

取っ掛かりのキーワード : スチームパンク航海誌

スチームパンク

前回はWikipediaの使い方を話すだけで終わってしまったので、具体的に見ていきましょう。

http://ja.wikipedia.org/wiki/スチームパンク
http://en.wikipedia.org/wiki/Steampunk
http://fr.wikipedia.org/wiki/Steampunk
http://es.wikipedia.org/wiki/Steampunk
http://de.wikipedia.org/wiki/Steampunk
http://it.wikipedia.org/wiki/Steampunk

とりあえず6言語ほど、翻訳機能を使いつつ眺めています。 数時間ほど各ページを眺めた結果わかったのは、既に気づいていたもののとにかく範囲が広い上に解釈の余地が広いので結構なんでもありだということ。そして、範囲が広すぎて理解するのも説明するのも大変だということ・・・。

とはいっても、何かしら手がかりを見つけていく必要があるのでまずは各ページで共通するキーワードを拾っていくところからスタート。

Anachronistic, 時代錯誤

どこでも共通するキーワードは時代錯誤、アナクロというワードでした。確かにこれはその通りなんですが改めて調べるまでこの言葉は出てきませんでした。時代錯誤というのは大きくいうと「その時代に無いはずのものがある」ですよね。

「現代なのに他の時代のものが入りこんでいる」
「古い時代なのに現代のものも入りこんでいる」

このどちらも時代錯誤という点では同じで、面白いですね。19世紀の要素を取り入れながらも、その時代に完全に同化しよういう方向性ではない所が。 このワードは頭に入れておくことにします。

Steam engine, 蒸気機関

スチームと名がつくだけあって、当然蒸気機関は重要です。ただ、蒸気機関って言葉は知ってるものの実情は正直よくわかりません。何せ私が生まれたころにはほぼ使われなくなっていったものです。

イメージは「でかい」「重い」「鉄っぽい」とかワイルド系。単純に蒸気機関の映像とかみるとかっこいいと思うんですがなぜそう感じるのは不思議。蒸気機関については個別に詳しく調べたいので後日。

Industrial Revolution, 産業革命

蒸気機関と絡んで、産業革命も重要なテーマのようです。アートや思想だけではなく工業的なものやイノベーションの価値観が含まれていると感じます。 発明品(Inventions)がよく出てくるのもその影響でしょうか?新しいものがどんどん生まれていく勢い、躍動感といったものも含めた産業革命というパラダイムシフトには魅力がありますね。

Victorian era, ヴィクトリア朝

1837年から1901年、ヴィクトリア女王がイギリスを治めていた時代。この時代のエッセンスを使うことがスチームパンクにとって重要みたいですね。上記産業革命の影響もあって、イギリスがまさに絶頂期だった時代ですね。当然多くの芸術や文化がこの時期に興っています。この時代に生まれた芸術や文化もそれぞれ個別に見てみたいですね。

Science Fiction / Fantasy, SFとファンタジー

どうやらSFの一派として最初は出てきたようで、初期の作品とされるものもSF感つよい。でもそれなのに幻想的とか、ファンタジーもあるという表現も出てくるんですよね・・・。更に歴史的とかいうのも出てきてよくわからん。

「ファンタジーはSFの一部」
「SFはファンタジーの1ジャンル」
とか双方の言い分があってこれはやばい沼の予感・・・。

まず、どちらも包み込んでいるという認識でいくことにして暫く深入りしないようにします。


いくつかキーワードを並べてみましたが、このへんが入っていないように見えるものもスチームパンクとされていたりしてかなり混沌としているのでとにかく、知れば知るほどキメラ感のあるジャンル。自分自身、それこそが面白いと思っている所は多々あります。

次回はスチームパンクとされている作品の話か、個別のキーワードをもう少し調べる話になりそうです。

別名たくさんオーディン様 : 原典で楽しむ北欧神話

北欧神話


関連項目: オーディン

北欧神話にオーディンという神様がいます。北欧神話で主神とされる神様なのでとても偉い。ほかの神話だとゼウスだとか天照に相当する位置づけですね。

さて、このオーディン様とても多くの別名をお持ちです。

グリームニルの歌はこんな節もあります。

Grim is my name, And Ganglare, Herjan, Hjalmbore, Thek, Thride, Thud, Ud, Helblinde, Har, Sad, Svipal, Sangetal, Herteit, Hnikar, Bileyg, Baleyg, Bolverk, Fjolner, Grimner, Glapsvid, Fjolsvid, Sidhot, Sidskeg, Sigfather, Hnikud, Alfather, Atrid, Farmatyr, Oske, Ome, Jafnhar, Biflinde, Gondler, Harbard, Svidur, Svidrir, Jalk, Kjalar, Vidur, Thro, Yg, Thund, Vak, Skilfing, Vafud, Hroptatyr, Gaut, Veratyr.

わが名はグリーム、ガングレリ、ヘリアン、ヒァールムベリ、セック、スリジ、スズ、ウズ、ヘルブリンディ、ハール、サズ、スヴィパル、サンゲタル、ヘルテイト、フニカル、ビレイグ、バーレイグ、ベルヴェルク、フィヨルニル、グリームニル、グラプスヴィズ、フィヨルスヴィズ、シーズヘト、シーズスケッグ、シグフェズル、フニクズル、アトリーズ、ファルマチュール、ゲンドリル、ハールバルズ、キャラル、ヴィズル、スロール、ユッグ、スンド、ヴァク、スキルヴィング、ヴァーヴズ、フロプタチュール、ガウト、ヴァラチュール

他の詩にも引用されているのですが、ひたすら別名を列挙する節があったりします。 別名がある神様は数ありますが、オーディンほど多くの名を持っているのはそうないでしょう。上記のほかも、まだまだ名前があります。

実は、なぜ多くの名を持っているかの説明が古代の詩で説明されています。

このおびただしい名は、この世界にたくさんのことばがあって、すべての国民が、神に呼びかけ、己れのことを祈願するのに、神の名を自分のことばになおす必要があると考えたことから生れたのだ。これらのきっかけになった出来事のいくつかは、オーディンの旅で起っている。

エッダ-古代北欧歌謡集 | 谷口幸男訳 p.242-243 より

ギュルヴィたぶらかしでこのように説明されています。たくさんのことば・・・とは言っていますが、これがいわゆる別の言語なのか、方言レベルのものなのかはよくわかりません。ただわかるのは神、主神を呼ぶための言葉はその呼び手によって変わるということだけです。
オーディンはよく自分の名を偽って旅をしているので、その名しかしらない人々は「最も偉大な者=X(Xには別名の何れかが入る)=オーディン」という構造が生まれたわけです。

多くの別名が生まれた背景を空想する

本文ではこのように書かれていますが、あくまで設定的なものです。実際には、何らかの事情があって別名が増えていく事態になったはず。それは神の世界の話ではなく、当時の人々の事情によるものでしょう。

まず一つに考えられるのは、民族移動や開拓の過程で統合されていった他信仰の神の名という説でしょう。ただこれは他の神、たとえばトールやチュールあたりがそういった神だとも言われていますし、それにしては数が多すぎる気がします。北欧神話の成立は8世紀以降の話ですし、アイスランド入植の以後はあまり地域も民族も動いてはいません。

もう一つ、私が空想しているのは当時の詩事情です。当時の詩というのは韻文詩なので、リズムや韻に一定の枠があります。 しかも、オーディンは主神なため当然多くの詩で出てくるわけですがそれを毎度オーディン、オーディンと言っていたら明らかにださいです。 たとえばオーディンの別名でアルファズル(Alfather)、ヴァルファズル(Valfather)がありますがこれなんか謡うときの押韻にとても便利。なので多くの詩人たちがクールに謡うためにその場にあわせた名前をどんどん作っていった・・・という事情があるじゃないか。そんな風に思いを馳せています。

このあたりは、詳しい資料があるかもしれないので見つかればまたレポートします。 ただ、「何が正しいか」を追求する前に色々な空想を広げて楽しんで欲しいと僕は思います。正解を探すよりまず、自分なりの考えや空想を組み立ててそれを語るのが楽しい、そう感じてもらいたいですね。

記事シリーズ開始+Wikipedia活用法 : スチームパンク航海誌

スチームパンク

さて、今日はまた別のシリーズをはじめますよ!

何度か記事を書きましたが、最近スチームパンクにはまっております。いや、最近というのは少し語弊がありますね。 スチームパンクであるといわれている作品リストをみると、10代の頃から好きだった作品のほとんどが含まれていて元々好きだった要素に最近適切なラベルが貼られた、そんな感じ?

あまりラベルをつけるのは好きではないんですが、キーワードがあると便利なのでついつい使ってしまいます。

そんなスチームパンクですが実のところあまりよくわかっていません。 なので、勉強というか色々な資料をみてどんなものかを調査していこう!というのがこのシリーズのテーマです。勉強とか調査みたいな言葉は硬すぎるのでスチームパンクらしく、いやこれがらしいのは確信はないのですが「航海」というタイトルにしました。

既に詳しい人が説明するのではなく、勉強しながら気づいた点や知ったところを書いていくのでそのあたりはご容赦を・・・。

どこから手をつけよう?

さて、調べてみよう!といったところでどこから手をつけようかというところが問題。比較的最近になってできたサブカルチャーのジャンルなわけで体系だった何かがあるわけではありません。いくつか本も出ていて持っていますが、一から学ぶという点においては少し違う気もしています。

物語のジャンルでもあるし、ファッションでもあり・・・と分野は多岐にわたるので少しずつ航海を進めることになるでしょう・・・。

まずとっかかりとなる部分が必要なので、やはりここは定番のWikipediaから初めていきましょうか。

自己流Wikipedia利用法

内容に入っていく前に、私のWikipedia利用法を説明しておきましょう。

みなさん、Wikipedia使いますか?使いますよね。さすがにこのサイトを見る方で使ってない人はほぼいないでしょう。

では。

まずみなさん何語のWikipedia使ってますか?

もし日本語だけしか見てない、というのであれば何ともったいない!
ご存じかもしれませんが、Wikipediaは色々な言語のページがあります。しかも項目ページから横移動できます!


そう、この場所にあるやつですね。

直接読めそうなのは日本語、英語くらいですが他の言語もGoogle翻訳を使えばなんとなく雰囲気はわかります。 日本語ページには情報がなくても、他の言語ならもっと多くの情報があったり参照している文献のパターンが増えたりするのでとても参考になります。 日本の文化や神様、地域の話は日本語ページが充実していることが多いのですがそれも他国からの視点を読むとより深く理解できるので少なくとも英語版のページ(あれば)はチェックしたほうがよいと思います。

英語以外の言語ができる方はもちろんその言語もチェックしましょう!

メタ情報を読み取る

さて、この各言語リストからいくつかメタ情報がゲットできてしまいます。

まず最初に、「どれだけの数の言語ページがあるか」。これでどのくらいその項目が言語や国を超えて普遍的に言及されているかがわかります。また、言語ページの偏りをみればどの文化圏で盛んなのかも読み取れます。 更に、「内容が充実しているかどうか」でも国ごとの熱意が少し伺えます。

たとえば、極めて多くの言語で書かれている項目はこんなものがあります。

Earth(地球)、214言語
Language(言語)、195言語
Human(人間)、162言語
※2013年6月18日現在の状況

さすが普遍的ですね。ちなみにGodはHumanよりやや少ない言語数でした。

もちろん、Wikipedianのモチベーションや地域に偏りがあるので厳密に実情がわかるわけではないですが参考にはあります。

また、項目によっては言語が違うとまったく違うことが書いてあったりします。そこまでいかなくても、少しずつ違う範囲を記述されているので複数の言語ページに書いてあることをまとめるとより多くのことがわかることが多々あります。

内容が充実していることが多いのはやはり英語、スペイン語、フランス語、イタリア語、ドイツ語、ロシア語、中国語、日本語あたりですね。それぞれ強い分野が違うので使い分けも大事です。中東系はあまり事情を把握できていません・・・。

"Steampunk"の各国版状況

で、肝心のSteampunkについて。

"Steanpunk"の項目は2013年6月18日の時点で33言語。文化のサブジャンルとしてはそこそこ多い部類に入るんじゃないでしょうか?比較対象を選ぶのが難しいのですが、例えば比較的最近できた文化カテゴリから二つ。Electronic Musicが66言語、Grungeが57言語です。

情報が充実しているのはまず英語。スペイン語、イタリア語、フランス語、ドイツ語、ロシア語そして日本語も同じくらいの分量で充実しています。このあたりはさすがヨーロッパ系カルチャーなだけはありますね。それぞれ微妙に書いてある範囲と表現が違うので全部チェックしていく必要があります、翻訳ソフトの手をかなり借りることになるでしょうが・・・。

リファレンスのインデックスとして使う

もうひとつ大事な点があります。それはリファレンス(出典)を活用しよう!ということ。 Wikipediaの特徴的なルールで、「出典を明らかにせよ」というのがあります。それもあって、末尾の出典リストが充実していることが多いです。リンクが貼られてることもあるし、そうでなくてもコピペでググれるので辿りやすい。


こんな感じで、色々な出典が書かれています。このそれぞれを読んでいくだけでも内容に理解が深まります。

項目の内容だけ読んで満足することありませんか?いや、それはそれでいいですし私もよくやります。
しかし、ちゃんとやるなら出典にあたりより理解を深めることが肝要ではないかと。

他の関連キーワードへのリンクや出典の情報の活用。サマリー付の資料インデックスだと思ってどんどん使っていきましょう。


調べ方の話でだいぶ長くなってしまったので具体的な内容については次回に!

記事シリーズ開始 : 原典で楽しむ北欧神話

北欧神話 神話

前回で錬金術講座の内容が(今書ける範囲で)ひと通り終わったので、これからいくつかの新しいシリーズを開始します! 神話と物語のサイトと言っているわけだし、そろそろ神話のお話をしていきたい。

というわけで、まずは神話ネタのシリーズを行きます。今後はいくつかのシリーズを並行し、一日ごとに入れ替えて掲載をする形を予定しています。

さて、最初に選んだテーマは北欧神話。私が最も気に入っている神話です。
その北欧神話を原典エピソードをまじえて紹介していこうというのがこのシリーズになります。

記事をご覧いただいている方、北欧神話はご存知でしょうか?オーディン、トール、ロキといった神が登場する話で、現代でも様々な創作物に引用されています。知っている名前やキーワードも度々出てくるでしょう。
知っている方へもそうでない方へも、まず概要を説明しておきましょう。

北欧神話はどこから来たのか?

では、まず北欧神話は「どこの」「いつの」「だれの」神話かをお話しましょう。
日本は単一民族かつ、国土がほとんど変化していない国であるためイメージがわかないかもしれませんが、ヨーロッパには基本的に民族や国家が次々に入れ替わっていった歴史があります。

なので、神話を楽しむにあたっても「どこの」「いつの」「だれの」という情報はとても重要です!

なぜそれが大事かというと、神話には多くの比喩表現や当時の文化背景に基づいた内容が含まれています。そういった内容を理解して楽しむために、事前の情報はとても助けになるのです。

では具体的に北欧神話がどこから来たのかという話に入りましょう。

まず、「どこ」の点から。
北欧と言うからには当然スカンディナビア半島を中心とした話と思いきや、発祥はアイスランドなのです。

http://goo.gl/maps/z04k6 ※Google map - アイスランド
アイスランドはグレートブリテン島の北西、スカンディナビア半島の西にある北海道と四国をあわせたくらいの大きさの島です。

「いつ」かについては、およそ8~13世紀の間です。文献が編纂されたのは12~13世紀ですが、アイスランドに入植がはじまった8世紀から語り継がれ伝承された内容がもとになっているとのこと。 神話の成立としては新しい部類に入ります。

アイスランドには北欧ヴァイキングのうち、ノース人が中心となって移住したので、これが「だれ」の部分になります。ゲルマン語族の民族なのでその系統の伝承を引き継いでいると考えられます。また、アイスランドは北欧諸国(ノルウェー、スウェーデン、デンマーク)と関係が深く共通した文化もあります。

このあたりの所は詳しく考えるとさすがに学者の世界になるし、まだ説が固まっていないので沼にハマってしまいます。 そういっや点の解明も大事ではありますが、それはアカデミックな話なので楽しむにあたっては大雑把な感覚だけ掴みましょう。

まず、

  • 8~13世紀あたりのアイスランドが発祥
  • アイスランドには北欧からヴァイキングが入植した
  • 主に古代アイスランド語で口述、記述された

くらいを雰囲気で覚えておけばよいでしょう。

原典を読んで楽しもう!

さて、大枠を掴んだところで原典の話にいきましょう。神話の原典とは何でしょうか? 神話によっては、原典がほとんど無いケースや断片的なため研究資料に頼るケースもありますが、多くの神話で何らかの「当時の人が書いた、もしくは当時の人から聞いて書かれた」「神話的な物語や詩」があります。これを原典といっていいでしょう。

北欧神話は文献が多く残っているので、原典を読むにも適したテーマであります。

ただ、原文だけ読むのは非常に大変です。その文化の文脈や現地語の意味がわからないので非常に苦労します。とはいえ、原典の日本語訳がある本には大抵訳注が入っており、言葉の意味や文脈を説明してくれています。書によっては原典部分より解説、研究部分のほうがページが多いなんてこともザラです。

しかし、それを一緒に読むことで間違いなく神話はより深く楽しめるようになると思います。

原典の面白いところ

「神話ができた当時の世界により触れられる」それが一番面白いところだと思っています。原典や、原典に近いものほど空気感が多く含まれているわけです。

これは何度も言うことになると思いますが、率直に言えば話として面白くないものも非常に多いです。

文化的に意味がわからない、受け入れがたいようなものも当然あります。

しかしその中に自分なりの面白さや発見をしていくこと、その過程がとても面白いのです。

このシリーズは「私が面白いと感じたエピソードを私の視点で紹介」する傾向が強くなると思います。それをただ読むのではなく、そのプロセスをみて楽しみ方を覚えてもらえると嬉しいですね。

次回の記事からは原典をピックアップして、その紹介をしつつ具体的なエピソードや視点を紹介していきます。

中世ヨーロッパへの伝播 : 原典で辿る錬金術の歴史 講義レポート 中世ヨーロッパ編(1)

錬金術


関連項目: ヨハネス22世 ロジャー・ベーコン

講義の4回目、中世ヨーロッパ編に入っていきます。アラビアで発展を遂げた錬金術は12世紀になってヨーロッパへと伝わることになります。

イベリア半島(スペイン)を経由した伝播

ヨーロッパルネサンスが本格化するのは14世紀、15世紀に入ってからですが、そこから数百年前のイベリア半島ではすでにその兆しが現れていました。
※イベリア半島=現在スペインとポルトガルがあるヨーロッパ南西の半島
イベリア半島は8世紀にウマイヤ朝が西ゴート王国を滅ぼした後、数百年の間アラビア世界としての歴史を刻みます。しかし、11世紀の後ウマイヤ朝の滅亡やカスティーリャをはじめとするキリスト教勢力によるレコンキスタの活発化などもあり、ヨーロッパ文化とアラビア文化が交錯する場所となっていきました。

数度に渡る十字軍の遠征、長期に渡るイベリア半島でのレコンキスタが奇しくもアラビア文化がヨーロッパに伝播にするきっかけとなったのです。

トレドに伝播した錬金術

錬金術が特に盛り上がったのはイベリア半島の都市トレド。この都市はカスティーリャ王国の首都だったこともあり、学問が盛んでした。1085年からヨーロッパ文化圏になったトレド、1236年に陥落したコルドバは中世ヨーロッパの錬金術にとって重要な都市であります。

1140年代には、トレドで活動していた翻訳家チェスターのロバートがはじめてアラビア語文献の翻訳しています。その後少しずつ訳本が増えていきます。そしてその過程でアリストテレスの全集などもラテン語に訳されることになります。

聖職者たちの錬金術

12世紀を皮切りにヨーロッパに伝播した錬金術は、当初聖職者たちの間で発展しました。13世紀のキリスト教修道会、ドミニコ会とフランチェスコ会の修道士や聖職者がアラビアから伝わった錬金術の研究をはじめたのです。
ドミニコ会のアルベルトゥス・マグヌスとトマス・アクィナス師弟、フランチェスコ会のロジャー・ベーコンは当時を代表する学者であり、錬金術にも精通していました。
因みに、キリスト教の聖人および偉人伝記である黄金伝説を記したヤコブス・デ・ウォラギネなどもこの時代のドミニコ会士です。

この時代の錬金術は、自然学的関心に基づいて行われていたようです。神による天地創造を再現しようとする試みでもあり、神の知へより近づこうとする活動でもあるそれが自然哲学となっていきます。もともと古代ギリシャでは聖職者や学者のものだった錬金術がアラビアでは比較的自由な場で公開され、ヨーロッパでは再び聖職者のもとに戻ることになります。

13世紀は錬金術を含めたアラビア学問やそのもととなったギリシャ学問の文献が次々とラテン語に翻訳され大きな熱狂が生まれた時代でした。しかし、ロジャー・ベーコンがアラビア思想を広めた疑いで一時投獄されることになるなど錬金術やアラビア文化の研究は公に承認を得たり奨励されていたものではなかったようです。

先進的な学者の間で密かな人気!とかそういった性格のものだったのかもしれません。

大衆化する錬金術

14世紀に入ってキリスト教会の態度が大きく変わります。ヨハネス22世の勅書により聖職者へ錬金術の禁止令が出ることになりました。教会内で異端のきっかけとして問題とされたことや、詐欺的な錬金術師が増えてきたことも原因となっていそうです。

またこの時代になると聖職者ではない学者や知識層が現れ錬金術の世俗化、大衆化が進んでいきます。同時に詐欺的な錬金術師が増えたり、世俗の欲望だけで錬金術を利用しようとするものが増えるなど問題を発生させながらも発展を続けていくことになります。

Roger BaconとNicolas Flamel

上記のような事情がある中世ヨーロッパの錬金術。講義では中世の代表的な錬金術師Roger BaconとNicolas Flamelの著作を読むことになります。
次回はBaconの著作の1つ、「Radix Mundi(Root of the World=世界の根元)」の内容に入っていきます。


これで今(2013年6月16日現在)受けている部分はすべて書けました。以降は次回講座の終了以降に掲載予定です。

太陽(Sol) = 金(Gold) : 原典で辿る錬金術の歴史 講義レポート アラビア編(11)

錬金術


関連項目: 錬金術師ゲーベル

アラビア編最後の記事は太陽、すなわち金についてのお話です。

【関連記事】
1:アラビアの錬金術事情
2:錬金術の思想とプネウマ
3:Magistery(自然変成力)
4:元素の分離とTincture
5:錬金術師Geber
6:金属の自然原理
7:金属と惑星
8:硫黄(Sulphur)
9:砒素(Arsenick)
10:水銀(Argentvive) = 水星(Mercury)


Jabir ibn Hayyan (8c) / Pseudo-Geber(13c)
from Of the Sum of Perfection : The First Book
The Third Part of this First Book: Of the Natural Principles, and their Effect.
Chapter 8 : Of Sol, or Gold.

この章に書かれていること

  • 金は金属質な体を持ち、淡黄色(citrine)であり、重く、静かで、輝いている
  • cupel(金の分析器)によって真の金であるかを検証する
  • 銅を金にこの術によって変成させることができる
  • 全ての金属でもっとも貴い、それは赤のTinctureである
  • 金はあらゆる体を変成せしめる
  • 燃やしたり、溶解されることに価値はない
  • 体(Body)を若い状態に保つ

さすがの金、かなり万能で強い性質を持っています。ただ、目的としている物質であるためか「どう扱うか」についてはあまり記述がありませんでした。ここで気になるのは金の分析器でしょうかね。金属の判別をするための手法ですが、素直に考えれば比重を使うと思うのですがどうやっていたのでしょう。硫酸を使って溶けなければ金、といった乱暴なこともできそうですが。


ここまで読んでアラビア編の講座が終了しました。金以降の金属については、参考書において割愛されています。
まだまだ多くの書がアラビア時代にはありますが、代表的かつ極めて重要な部分が講師によりピックアップされています。概要は知っていましたが、実際の文を読むとより理解が深まりますね。 続いて中世ヨーロッパ編に入っていきます。

簡単なアレンジで作る(?)スチームパンク風ファッション小物

スチームパンク

本来は錬金術レポートのアラビア編(11)を掲載する予定でしたが、6月14日はスチームパンクの日らしいのでせっかくだから関連する記事に変更です。

少し前にスチームパンク風ファッションをはじめたのですが、メンズは特にそのものズバリなものがあまり見つかりません。もちろんスチームパンク系のアイテム扱っているショップもあるにはあるし、Etsy見ればそれなりに揃うのですがそれもどうなんだろうと。

なんとなく最初からそういうのに頼り過ぎるのはよくないような気がしているのです。どうやらDIY精神というものも重要だと小耳に挟んでいますし。(といいつつゴーグルに関してはスチームパンクと名のついたものを買ってしまいましたが。。。)

ということで、そのへんの古着屋で手に入れたものや東急ハンズで買った部品を組み合わせ「なんとなくそれっぽいんじゃない?」ものをいくつか作ってみました。ちゃんとしたクラフトではないので「風」です。
さすがにいきなりレザークラフト用品とか塗料とか金属加工の道具はしんどい。あと部屋が狭いのでそもそも作業スペースがない、今の家に引越す時にそんな状況は想定していませんでしたからね。いつかはそういった所にも挑戦してみたくはありますが今のところはアレンジ中心でいくつもり。

というわけでこれまでに制作?したものを紹介。

腰ベルトにつけるアクセサリー


デザインフェスタで買ったビスマス結晶とアンティーク風時計を組み合わせたアクセサリー。
特殊な道具も不要で簡単に作れるので後日作り方の記事を掲載するかも。アンティーク風時計が735円、試験管その他の部品が500円以内、ビスマス結晶が700円分くらいなので1つあたり2000円程度で作れます。

腕時計


上記アクセサリーで使った材料が余ってたので腕につけるものも製作。
これも時計735円で結晶も合わせると3000円いかないくらいでしょうか?街中でつけるのは少々憚られる。

アームレット


もとはブレスレットですが、絞るための紐を一度ほどいて最大の長さにすることで二の腕につけられるように改造。
たしかひとつ525円。

古鍵付キーホルダー


ベルト用キーホルダーにアンティークショップで買ってきた古い鍵を入れただけ。キーホルダー990円、鍵が300円くらいだった気がするので意外に高くついた。後述のハーネスもどきのベルトがぶらぶらするのでこれで留める予定。

鍵と歯車のペンダント


古着屋で買ったアンティークペンダントに歯車をワイヤーで留めただけですが、なかなか雰囲気が出たような?つけるときはもうひとつ別のペンダントを重ねています。
使っている歯車は新宿A Storyさんで購入した古い時計を部品。2つで600円とかそれくらいだったかな?鍵のアクセサリ自体はよく行く古着屋で買って735円。

歯車付ショルダーベルト


古着屋で買ったベルトと歯車(上記と一緒に買った)、東急ハンズで買ったパーツを組み合わせて作成。 まず、ベルトを買う時にバックル部分がボタン式で簡単に外せるものをチョイス。あとはバックルの代わりにナスカン、もう一方は端を折り返し、針金とリング状の革(名前がわからない。ベルトを通して固定するやつ)で固定。 歯車は留め具の穴に差し込んでいます。ベルトは525円なので部品込で1500~2000円くらいかな。

ハーネスのような何か


ふと、手持ちの素材でハーネスっぽいものが作れそうな気がしたので組み合わせてみた。
両脇部分に金具が付いたベルトを古着屋で買っていたので、それにショルダーベルト二つでハーネスっぽい何かに。背中側がクロスするように金具を留めます。金具部分がでかいので物を引っかけるのに便利。
900円くらいのベルト+上記ショルダーベルト+元々持ってたショルダーベルトだからほとんどお金かかっていない。

使った工具とか

  • マイナスドライバー
  • ラジオペンチ
  • ニッパー
  • ピンバイス
  • 針金ブロンズ色(1.6mm、1.2mm)
  • 真鍮ワイヤー(1.6mm)

たぶんこのくらい、特別なものはほぼ使っていなくてよくある工具キットに入ってあるものばかり。ただピンバイスだけは一般的じゃないかも?ワイヤーを通す穴をコルクに空けるときに使っただけだからピンバイスじゃなくてもできる気がします。

アイデア次第で楽しく

このような感じで、手間とお金をかけないでも色々と楽しめます!普段の生活でも「これは何かに使えるかなー」と新しい視点をもてるので刺激にもなります。どっちかというと目的を決めていくときよりぶらぶらしてるときに発見することが多いですね。

さすがに完成度はなんとも・・・なのですが最初のステップとしてはいいのではないでしょうか。

水銀(Argentvive) = 水星(Mercury) : 原典で辿る錬金術の歴史 講義レポート アラビア編(10)

錬金術


関連項目: 錬金術師ゲーベル 水銀 水星

三つめは水銀です。硫黄と並んで重要な物質になります。イベリア半島(現代のスペイン)のシウダ・レアルなどに大きな水銀鉱山があり、紀元前から発掘されていました。アラビアで錬金術が盛んだった時期、イベリア半島はアル=アンダルスと呼ばれアラビアの支配下にあったため当然その鉱山の水銀も利用できたでしょう。 その性質を目の当たりにした人々が驚き、水銀を特別なものと考えたことは不思議ではないでしょう。

【関連記事】
1:アラビアの錬金術事情
2:錬金術の思想とプネウマ
3:Magistery(自然変成力)
4:元素の分離とTincture
5:錬金術師Geber
6:金属の自然原理
7:金属と惑星
8:硫黄(Sulphur)
9:砒素(Arsenick)


Jabir ibn Hayyan (8c) / Pseudo-Geber(13c)
from Of the Sum of Perfection : The First Book
The Third Part of this First Book: Of the Natural Principles, and their Effect.
Chapter 6 : Of Argentvive, or Mercury.

この章に書かれていること

  • (当時から見た)古代人はArgentvive、水銀をMercuryと呼んでいた
  • 大地の奥にある粘り気のある水である
  • それは流れ、くっつかない
  • Saturn(鉛)、Jupiter(錫)、Sol(金)と容易に融合する
  • Luna(月)の融合はそれより難しい
  • Venus(銅との融合は更に難しい)
  • Mars(鉄)と融合することはない
  • だが術の熟達があればその限りではない
  • 水銀によって金属は輝く
  • Elixirそのものではないが、術の助けになるかもしれない

おおよそこのような内容になっています。実際、水銀は鉄と融合しないので何らかの実践により得られた知見が記述されているのだと思います。硫黄もそうだったように、比喩的な表現が多くてわかりにくいものの机上の理論ではなく実践に基づく技術であることがわかります。


次でアラビア編は最後、金についての話になります。

砒素(Arsenick) : 原典で辿る錬金術の歴史 講義レポート アラビア編(9)

錬金術


関連項目: 砒素 錬金術師ゲーベル

硫黄に続いて砒素に入ります。毒性が強いので取扱いに注意が必要な物質ですが、昔は様々な力や効用があると信じられていました。そのほとんどは間違った知識だったため、砒素中毒で亡くなったり健康を害してしまったりと問題のある物質でもありました。

【関連記事】
1:アラビアの錬金術事情
2:錬金術の思想とプネウマ
3:Magistery(自然変成力)
4:元素の分離とTincture
5:錬金術師Geber
6:金属の自然原理
7:金属と惑星
8:硫黄(Sulphur)


Jabir ibn Hayyan (8c) / Pseudo-Geber(13c)
from Of the Sum of Perfection : The First Book
The Third Part of this First Book: Of the Natural Principles, and their Effect.
Chapter 5 : Of Arsenick.

この章に書かれていること

  • 硫黄に似た霊妙で繊細な物質である
  • その性質は硫黄にほぼ通じる
  • しかし、一つの点において違いがある
  • 砒素は白のTinctureを容易に帯びる
  • その代わり、赤のTinctureを帯びるのは非常に難しい
  • 硫黄はその逆で、赤を帯びやすく白を帯びにくい
  • この術の本質ではないが、助けにはなるかもしれない

このような内容が書かれています。ほかの物質と比べるとあまり特筆すべきものがありません・・・。 赤のTinctureは錬金術の本質なのでそれを帯びないというのもマイナスですし。 実際のところ、砒素の存在がしっかりと確認されたのは13世紀らしいので、あまり書けることがないのかもしれません。


次回は水銀です。前述の通り、錬金術にとって極めて大事な物質になります。

硫黄(Sulphur) : 原典で辿る錬金術の歴史 講義レポート アラビア編(8)

錬金術


関連項目: 硫黄 錬金術師ゲーベル

ひとつめは硫黄について。硫黄といえば温泉を思い浮かべる方がいるかもしれませんが、自然哲学や金属加工の分野においては非常に重要な要素と考えられています。
Geberは硫黄-水銀理論を提唱し、金属の違いは硫黄と水銀の比率で現れるという仮説を立てていたようです。第6回、金属の自然原理でもその考えは出てきましたね。硫黄と水銀はEarth・・・大地の奥深くを流れ、溶け、昇華しまた固まることで金属になる。その過程の比率変化によって違う姿になるということですね。

【関連記事】
1:アラビアの錬金術事情
2:錬金術の思想とプネウマ
3:Magistery(自然変成力)
4:元素の分離とTincture
5:錬金術師Geber
6:金属の自然原理について
7:金属と惑星


Jabir ibn Hayyan (8c) / Pseudo-Geber(13c)
from Of the Sum of Perfection : The First Book
The Third Part of this First Book: Of the Natural Principles, and their Effect.
Chapter 4 : Of Sulphur

この章に書かれていること

  • 硫黄は大地(Earth)のFatnessである

Fatness=現代語では肥沃、豊かさ。油っぽさなど。古語の説明を見ると下記のようになっています。 "Fatness" is commonly applied to sulphur and suggests an oily layer or deposit in the earth. as well as fertilty
意味合いは非常に近く、oily layer or deposit in the earthとあるので「大地(のおそらく奥)に溜まった堆積物、または油の層」のようなニュアンスでしょうか。

  • 程よい煮出しにより、大地の中で固められる。それが硫黄と呼ばれる
  • それは同質であり、最強の合成物である
  • Calcine(焙焼)を試みるのは意味がない
  • なぜなら、非常に大きな労働と極めて多くの損失を伴うから
  • 硫黄と体(Bodies)を親和的に結合させる
  • そして金と錫を除く物質は容易にCalcine(焙焼)される
  • 金は最も難しい
  • その硫黄の働きを錬金術だと考えてはいけない

おそらく、このような内容かと思われます。硫黄の性質と扱い方についてが記述されていますね。

硫黄と硫酸

講義では出てきていませんが、Jabirは人類で初めてもしくはかなり初期に硫黄から硫酸の生成に成功したといわれています。またJabirは硫酸のほか、塩酸や王水、アルカリについても発見したとされています。
化学の授業や実験で経験があるかもしれませんが、硫酸は多くの金属を溶解することが可能です、しかし、条件にもよりますが文中にもあるように金と錫は溶かすことが困難です。本文では単にSulphur(硫黄)としか書かれていませんが、硫酸を用いた実験の経験が影響を与えている可能性は高いのではないでしょうか。


次回は砒素(Arsenick)です。

金属と惑星 : 原典で辿る錬金術の歴史 講義レポート アラビア編(7)

錬金術


関連項目: 水銀

次の章に入る前に、金属と惑星の話をします。錬金術の著書において、様々な鉱物のもととなると考えられていた金属がいくつかあります。そして、その全てが惑星と対応して考えられていました。

【関連記事】
1:アラビアの錬金術事情
2:錬金術の思想とプネウマ
3:Magistery(自然変成力)
4:元素の分離とTincture
5:錬金術師Geber
6:金属の自然原理について

7つの金属と惑星の対応

(Gold) - 太陽 (Sun/Sol)

(Silver) - (Moon/Luna)

水銀(Argentvive/Mercury) - 水星(Mercury)

(Lead) - 土星(Saturn)

(Tin) - 木星(Jupiter)

(Iron) - 火星(Mars)

(Copper) - 金星(Venus)

このように、7種の金属と7つの惑星の対応が定義されています。
これがなぜ重要かというと、錬金術の著書において金属はほぼ惑星の名前で記述されているからです。
具体的には「水星は土星、木星、太陽と結合する」といった形の文章が出てきますが、当然これは惑星が結合するという意味ではなくその惑星に対応した金属のことを指しているわけですね。

この対応は近代まで受け継がれており、19世紀に黄金の夜明け団のマグレガー・メイザースが編した「ソロモン王の鍵」でもその影響が見られます。(リンク先の対応表にそれが見られる) http://www.esotericarchives.com/solomon/ksol.htm#table2


次回以降はGeberの著作に戻ります。硫黄、砒素、水銀、金の四種類を四回に分けて掲載予定なので、ここからは暫く軽めの記事になるでしょう。

金属の自然原理について : 原典で辿る錬金術の歴史 講義レポート アラビア編(6)

錬金術


関連項目: 錬金術師ゲーベル

Geberの著作、 The Sum of Perfectionの一部を読んでいきます。このタイトル、日本語訳が非常に難しいですね。まずSumは合計、総括ともいえるし概要ともいえます。Perfectionは完全や熟達という意味ですが、これは錬金術を熟達するという意味にも取れますし錬金術の過程や作業そのものをPerfectionと呼ぶという解釈にも取れます。

そもそも英語訳自体が原典から距離があるため、原義を汲み取るのが難しくなっています。
まずギリシャ語もしくはコプト語の文献を読んだ学者がアラビア語に翻訳。その書を読んで学んだ者がアラビア語で書いたものがラテン語に訳され、さらに英語に訳されているわけです。とはいえヨーロッパ系言語であればまだ構造が近いのでましなのでしょうが、日本語になると基本構造が違うので非常に困ります。

そういった点もあり、このシリーズの記事では所々英語のままの部分や併記している部分があります。そこを無理に訳すとかえって分かり難くなると判断したためですのでご了承ください・・・。

【関連記事】
1:アラビアの錬金術事情
2:錬金術の思想とプネウマ
3:Magistery(自然変成力)
4:元素の分離とTincture
5:錬金術師Geber


Jabir ibn Hayyan (8c) / Pseudo-Geber(13c)
from Of the Sum of Perfection : The First Book
The Third Part of this First Book: Of the Natural Principles, and their Effect.
Chapter 2 : Of the Natural Principles of Metals, according to the Opinion of Modern Philosophers, and of the Author

この章に書かれていること

タイトルは「(当時の)現代の哲学者、著者の意見による金属の自然原理」といった意味合いです。つまり当時の金属に対する考えがまとめられているわけです。そしてこの章では水銀と硫黄が重要なキーワードとして出てきます。

  • 水銀と硫黄は(重要ではあるが)原理(=Spirit)ではない
  • しかしEarthの中に入り変化、変換される
  • 自然の意思によりそれは起きる(鉱山で?)
  • 大地の中に流れ、溶け、蒸気になる
  • (おそらく)それが煮出し続けられ、厚く(Thickned)硬く(Hardned)なることで金属が作られる
  • 彼ら(おそらくModern Philosophers)は真理に近づいてはいるが、まだ完全な推論に辿りついていない

大体このような内容が書かれている・・・はず。当時の人々が金属をどう見ていたかが朧げながらも伝わってくるのではないでしょうか。

Argentvive=水銀

この章およびこの後の章で度々Argentviveという言葉が出てきます。現代ではほぼ使われない言葉ですが、これは水銀のことを指しています。Argent=古い言葉で「銀」、vive=古い言葉で「生きている、生き生きしている」といった意味で、繋げると「生ける銀」になります。
水銀を目の当たりにした古代人が「これは生きている銀だ」と思うことは自然な感覚といえるでしょう。


次回は著作から少し離れ、金属と惑星の対応について書きます。

錬金術師Geber : 原典で辿る錬金術の歴史 講義レポート アラビア編(5)

錬金術


関連項目: 錬金術師ゲーベル

Khalidに続いてJabir ibn Hayyanの著作に入っていきます。

【関連記事】
1:アラビアの錬金術事情
2:錬金術の思想とプネウマ
3:Magistery(自然変成力)
4:元素の分離とTincture

Jabir ibn Hayyanもしくは偽Geberについて

ジャービルもハリードと同じくアラビア時代の錬金術師ですが、後世の西ヨーロッパにではGeberと呼ばれ非常な権威を持つことになりました。しかしその権威の影響でジャービル本人が書いてないものもGeberによる書とされてしまい、偽書が非常に多く残されることになります。 (Geberの日本語読みはゲーベルが近い)
アラビア語の原典があるものは本人が書いた可能性が高いですが、ラテン語版のみ残されている書の多くは偽書とされています。それだけ当時の錬金術師界においてJabirの名が権威的であったことは確かと言えるでしょう。

前述のKhalidはアラビアに錬金術文化を興す立役者であり、古代とアラビアを繋いだ錬金術師とするとGeberはアラビア期と中世ヨーロッパ期を繋ぐ錬金術師と言えます。

そのGeberが残したとされる重要なものが3つあります。

  • 硫黄-水銀理論
  • 賢者の石を準備するための主要なプロセス
  • 炉(かまど)、火加減、その他の実験装置

この3つ、特に硫黄、水銀やその他金属をどう扱うかについて後世の術師に大きな影響を与えることになりました。


Jabir ibn Hayyan (8c) / Pseudo-Geber(13c)
from Of the Investigation or Search of Perfection(final chapter)
Chapter 11 : Of the Properties of the Greater Elixir.

この書に書かれていること

Elixirの特質と、錬金術の作業に求められるものについてが記述されています。
しかし、やはり全体的に非常にもやっとした表現です。キーワードとしては「流入する」「固定できるものを固定」「圧密した」「金と銀をもやさない」などが出てきますがよくわかりません。
また、その準備は一度の準備では無理で、長い時間が必要であるとも言っています。ただ、長いとはいえ人間の業として可能な程度には短いと言っているようです。自然界に置いては非常に長い時間をかけて行われるプロセスを、この術によって短縮することこそが価値であるとの事です。

Opus(術=錬金術)に必要なもの

  • 忍耐
  • 多くの時間
  • 器具、装置の適切さ

この3つが術(=Work=Opus)に必要とこの章に書かれていますが、具体的な記述はありません。。。
心構えをひたすら説かれます。というか、何だってそうだろと言いたくなる内容で非常に困る。

Elixir(our Stone)の構成

この章において、

  • 実り豊かなプネウマ
  • 生ける水(Living Water、またはdry waterと呼ばれる)

我々の石(=賢者の石=Elixir)とはこの2つ以外の何者でもない。
そして

  • 希薄な完全なる体

を加えた3つにより、術を短縮することができる。
と書かれています。正直「おまえは何を言っているんだ?」というところですが馬鹿にしてはいけません。当時は真面目にこのような仮定のもとで様々な実験や研究を行っていたのです。Jabirの生きていた8世紀アラビア、偽Geberの書が書かれた13世紀ヨーロッパの状況を踏まえて解釈をする必要があります。


次回も引き続きGeberの著作になります。ちなみに、ここまで実際の講義では2回と少し。非常に濃度が高いです。

元素の分離とTincture : 原典で辿る錬金術の歴史 講義レポート アラビア編(4)

錬金術


関連項目: ティンクチャー ハーリド・イブン・ヤズィード

前回に引き続き、Secreta Alchymiæの内容です。今回はChapter 29の記述。文の量は22の半分から三分の一くらいですが、錬金術にとって重要な作業が書かれています。

【関連記事】
1:アラビアの錬金術事情
2:錬金術の思想とプネウマ
3:Magistery(自然変成力)

Khalid ibn Yazid (635-c.704)
from Secreta Alchymiæ
Chapter 29 : Of the Separation of the Elements.

四大元素と錬金プロセス

錬金術の過程における元素の分離についてが書かれています。ここでいう元素は現代でいう元素ではなく、「Earth(大地)」「Water(水)」「Air(空気)」「Fire(炎)」4つの元素のことです。

この章では、元素を分離しElixirを精製するプロセスについて書かれていますがまだ理解しきれていません。

原文で理解できたのは

  • Cucubit, AlembickによってEarth、Water、Air、Fireを分離する
  • 大地から水、火から空気を取り出し、それぞれ個別に保持する
  • ビンの底にたまるオリを温かい火で洗浄する。黒さと濃さがなくなるまで。
  • 濁っておらず、暗くなく、不浄でもない白いCalx(金属の燃えカス)を取り出す
  • 稀薄で霊妙な元素のようなものが立ち昇る
  • 作業は何度も繰り返しどんどん稀薄にしていきましょう
  • Godに謝辞を
  • 何もそれに混ぜてはいけない

といった部分だけで、結局どうすればいいのかはいまいち・・・。後半で文意がわからないところがたくさん出てきます。
ただ、稀薄なものほど霊的と考えられていたであろう事など当時の思想が伺える内容にはなっています。

元素の相互変換性

四大元素はそれぞれ完全に独立した存在ではなく、相互に変換が可能だったと考えられています。 これもコアになっているものは同じで、性質が元素の違いを生み出しているため性質を変えれば変換が可能という理屈です。

Tincture

現代では色味を意味する言葉ですが、錬金術の文脈では違う意味を持っています。 霊的原理としての意味合いを持ち、非物質的実体すわなち本質でありこれが物質に満たされる・・・との事。

・・・はい、何言っているか意味がわかりませんよね。別の視点からみると

  • 物質はそもそも性質(形祖)を含んでおらず同質。質料と形祖は別物だから
  • 空の入れ物に様々な性質(Tincture)が満たされることで、物質の違いが現れる

ということでしょうか。
金属でいうと、「鉄を鉄らしく見せている性質」「銅を銅らしく見せている性質」といったものが物質に宿ることで鉄は鉄に、銅は銅になるという話・・・だと私は解釈しています。
鉄=質料+鉄のTinctureということですね。

第五元素

この書には出てきませんが、余談として第五元素(アイテール)の話も出てきました。 究極、至高の原質であり宇宙と構成すると考えられていました。


すごくもやっとしたままですが、以上でKhalid ibn Yazidについては終了です。残念ながら、このもやっとした感じはこの後もずっと続きます。しかしそれが錬金術の文体でもあるので、そのもやっと感そのものをも私は楽しんでいます。 次回はJabir ibn Hayyanの著作に入っていきます。

Magistery(自然変成力) : 原典で辿る錬金術の歴史 講義レポート アラビア編(3)

錬金術


関連項目: 自然変成力 ハーリド・イブン・ヤズィード エリクシール

講義の2回目では、ウマイヤ朝の王子ハーリド・イブン・ヤズィードが残した文献Secreta Alchymiæを読みました。ここでは本文を詳細に読むわけにはいかないので、大まかに何が書かれてるかと、本文中の重要なキーワードを解説する形式で進めます。

【関連記事】
1:アラビアの錬金術事情
2:錬金術の思想とプネウマ

Khalid ibn Yazid (635-c.704)
from Secreta Alchymiæ
Chapter 22 : Of the Difficulties of this Art.

このChapterに書かれていること

Of the Difficulties of this Art. 日本語でいうなら「この術の困難さについて」といった所でしょうか。ここでいう「この術」というのはもちろん錬金術のことです。この章では錬金術の困難さと、この術を学ぶためのにはどうあるべきかが書かれています。

大まかな構成は

  • 神への感謝を述べ敬虔な態度を示す
  • Magistery、Secret Stoneについて
  • ある弟子の話
  • 著者がこの書で何を伝えたいか
  • この術に必要なこと

となっています。

最初の部分は決まり文句のようなもので、神への敬虔な態度を示します。この時代の術は何らかの形で神的なものとの関わりがあるのでその点は注意が必要です。
この書を表わしたのは当然ながらイスラム教徒なのですが、比較的自由な宗派にいたため「イスラム教的なGod」ではない可能性があります。古代の書で「God」が出てきた際、「誰がどんな文脈で書いたか」を頭に入れておいたほうがいいでしょう。

次いで、Magistery、Secret Stoneについての話が入ります。Magisteryいついては後述します。

ここで少し話は変わって、ある弟子の話が例に出されます。この弟子は非常に敬虔であり、数多くの過去の著作を読み勤勉なわけです。しかし、この弟子をもってしてもこの術の真理に触れることはかなわなかったと著者はいいます。
その弟子は決して能力がなかったわけではありません。人の世では彼は賢者として称賛されるべき人である、とも言っています。著者は「人の世では賢者とされる者が敬虔に、かつ勤勉に求めてもこの術の真理には辿りつけなかった」とう事例をもってこの術の困難さを読者に伝えようとしているわけです。

さて、さんざんこの術の困難さについて話したところで著者がこの書でやろうとしていることが示されます。なんと「この術の秘密を公にする」というのです。それもこれまであった他の書よりはるかに深く、十分な内容で、と。

・・・と著者は申しているんですが、やっぱり意味わからないんですよね。というか、「秘密を公にしました!」と嘯いている書でこれだけ意味不明となるとこれまでの書は本当にどうしようもない内容だったんでしょう。そりゃ弟子も真理には辿りつけないです。

そして章の最後に、この術を実行するにあたり必要なことが説明されます。「Geometrical propotion」「火の加減」といった点が重要であり、適切なプロセスを経ないと全ては水泡に帰すのだ、と諭します。 全般的に「適切にやりなさい」という話なんですが、困ったことに何が適切かについてはあまり言及していないんですよね。それは察せよという話なのでしょうが・・・。

以上がこの章に書かれていることです。具体的な話は少なく、この術を取り巻く概要をこまかに説明している章のようですね。 後はこの章にあるキーワードを解説していきます。

Magistery(自然変成力)

この章で何度も「Magistery」という言葉が出てきます。それに講師は「自然変成力」という訳を与えています。 英語の辞書を引くと、
an agency or substance, such as the philosopher's stone, believed to transmute other substances.
となっています。
それは作用、媒介もしくは物質で、哲学者の石(=賢者の石)ともされる。他の物質を変化さしめると信じられていた・・・といった意味合いでしょうか。

これはまさに前回に出てきたプネウマの性質にも似通っています。錬金術師たちは様々な表現を使いますが、基本的に言っていることはほとんど変わりません。それは自然界の物質を変化させる「何か」があり、それにどうにかして辿りつこうという試みを様々な形で表現しています。

また、文中でハーリドはこのMagisteryが4つあると言っています。

  • Mineral Elixir
  • Animal Elixir
  • 別のMineral Elixirs(=残りの2つ?)

ただ、短い文であるので詳しいところは不明。最初の2つはただ名前があるだけです。後は二つはどう違うのかよくわかりませんが次のような効果を持つと言っています。

  • 単一鉱物のElixirではない
  • wash(洗浄)、cleanse(浄化)、purifie(純化)をする
  • 金を生成する
  • 大地の奥で自然発生するかのごとく働く

手前二つと後ろ二つが違うElixir(第3と第4)の働きかもしれません。

またElixirという言葉ですが、Elはアラビア語のal(AlchemryのAlと同じ)つまり英語のthe、ixirはアラビア語でPhilosopher's stoneを意味するようなので結局これも哲学者の石であるということです。

Philosopher's stoneとour Secret StoneそしてElixir

色々な言い方をしていますが、Magistery=Philosopher's stone=Elixirなので全て自然変成力もしくはそれを持つ物質を指しているようです。
Elixirは石だったり液体だったり色々といわれていますが、形態はあまり重要ではなく内在するMagistery(自然変成力)をどう扱えるかが重要なのだと思います。プネウマに関してもMagisteryについても、おそらくそのままでは人間の手に扱えるものではありません。それを何らかの形で人間による制御可能な状態にしたものがPhilosopher's stone=Elixirということなのでしょう。

Geometrical Proportion

ハーリドはこの章で適切な術を行うにはGeometrical Proportion、幾何学的な調和が重要だと言っています。これはおそらく術のための竈をどんな形にするかの話です。ギリシャ時代からの思想なのでしょうが、正しい行いや術には正しい形が必要であるという思想は錬金術においても重要視されているようです。

火加減、熱

また、術には形状だけではなくとくに火加減が重要だと述べています。これは錬金術の話でもよく言われるところですね。火を重要視する思想は古代の神話から連綿と続いているので錬金術にも引き継がれているのでしょう。


次回は同じ書のChapter 29に入っていきます。

錬金術の思想とプネウマ : 原典で辿る錬金術の歴史 講義レポート アラビア編(2)

錬金術


関連項目: プネウマ

前回の記事に引き続き、錬金術の講義レポートです。

1回目:アラビアの錬金術事情
http://mythgraph.com/blog/51adb35a56b56f4b3c9c9ad5

今回は錬金術に関する著作の根底にあるものについて書いていきます。

あえてわかり難く書く

まず、錬金術の著作は全般的に「誰が読んでもわかるようには書かれていない」ということがあります。これは単純に読みにくい文章を書いてしまった、というものではなく"意図的"に「理解が困難になるように」書かれているということです。

現代の書物、特に実用書や技術書の分野においてはほとんど意味の無い行為ですが、錬金術的な思想では重要なことでした。なぜこうなってしまったかは色々な要因が考えられますが、結果として非常に難解な文献が残ることになりました。

そこには錬金術を学ぼうとする者へのフィルターとしての役目もあったかもしれません。

術師自身が「我々が求めているものが簡単であってはいけない」と信じたかったのかもしれません。

実は自分でもよくわかっていなくて、仕方なく煙に巻くような記述をするしかなかったのかもしれません。

ただ、そういった事情に逆らって「わかりやすく」書こうとした錬金術師たちもいます。しかし、それでもやっぱりよくわからないのですが・・・。何にせよ、それを読もうとする前には「そういうものだ」という覚悟で読むと苦しまないで済むでしょう。
意味がわからなくても過度に気にする必要がない、くらいの気持ちで取り掛かるのがいいのかもしれません。

ある物質を他の物質に変えることが理論的に可能と信じていた

この点は非常に重要です。これを信じていたからこそ、鉄を金に変えることもできると考えたわけです。
そしてここでいう変化とは現代でいう原子、元素ベルでの分解、再構築といったものではありません。 [ABCD]という物質を[ABC]と[D]に分解することで「人間の認識上、別のものに変化したように見える」という状態を生みだすことではなく。[ABCD]という物質を何らかの手段によって[WXYZ]に変化させられる、という思想です。

さらにそれが理論的に、再現可能な形でできると信じていたようです。

物質の変化には死と再生を要する

ある物質を腐敗させそこに新たな発生を起こすことで変化が可能と考えられていました。つまり、ある物質に死を与え、それを再生する際に別のものに変化させるという寸法です。

この部分でも現代の物質に対する考え方と大きな違いがありますね。

媒介する「プネウマ(pneuma)」の存在

さて、物質を変化させるにはただ物質を腐敗させ、死を与えるだけではいけません。そこで媒介となるのが「プネウマ」です。
このプネウマはギリシャ哲学から発生した言葉で、「生命の息吹き、精気、霊」のことを指しています。Spiritus、Spiritの元になり、インドのPranaといった言葉とも近いものがあります。

そして講師曰く、このプネウマとは「霊妙であるが、完全に非物質的ではない力(媒介)」であるとの事。

「霊妙であるが、完全に非物質的ではない力(媒介)」・・・理解に苦しむ言葉ですね。
非物質的な霊とは違い、僅かながら物質性があるということを指しているのでしょうか。しかし、「物質である」とも言っていないので中間的なものなのかもしれません。
概念としては、「気」などにも近いものがあるとの事。そもそもの意味も「息吹き」ですしね。

またこのプネウマは地上の生物に内包していると考えられていました。錬金術的には金属も生きている(=生物)ので、当然プネウマを含んでいます。

このプネウマを媒介にすることで、物質を変化させることができます。
つまり、錬金術とはこのプネウマを制御するための術とも言え、この先の著作でもそれを前提としているであろう記述が度々出てきます。

それにしても錬金術って言葉、本当によくない訳ですね。もとのAlchemyにはそんなニュアンスはほぼ無いのに・・・。便宜上この先も錬金術と記載しますが、字面でのイメージを取り除くようお願いします。。。

質料 - 形祖 - 精神の関係

プネウマとかかわる概念として、質料 - 形祖 - 精神の3要素があります。
これが錬金術が自然界の変化をどうとらえていたか、という思想に大きく関わってきます。

まず、質料は物質であり「質量のある、形がはっきりとしたもの」のことのようです。
形祖は性質のことで、物質はこの性質の違いによって「違う物質」として現れます。
精神は意思や霊的なもので、これはおそらく非物質なものと思います。

自然界に遍く存在する物質は「なんらかの形祖を持つ質料」であり、物質の変化はこの形祖の変容によって起きるわけです。
当然ここでもプネウマが重要な役割を果たすことになります。

精神がどう働くのかに関してはよくわかりません。正確にはこの講義ではまだその点について踏み込んでいません。ほかの文脈における精神を説いても意味はないので、ここでは「要素の1つとして精神がある」という話にとどめておいてください。


以上が錬金術の思想に関する話です。
ベースとなる点がわかったところで、次回は著作の内容に入っていきます。

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