up

実践 オリジナル楔形文字のつくりかた ビギナー編

空想神話のデザイン術 空想言語

空想言語をつくるための重要な要素、文字のデザインをしましょう。今回は文字の中でも、楔形文字を作るやり方を紹介したいと思います。内容としては初歩的なところになっていますが、そのぶん取っ掛かりやすいのではないでしょうか。

さて、文字だけで説明しても埒があきませんのでまずはこちらをご覧ください。

これは私がデザインしたオリジナルの楔形文字です。かなり合理的に単純化しているので、実際あった古代の楔形文字とくわべると非常にシンプルな形になっていますが、最初はこのくらいが作りやすいでしょう。

そしてこの文字を実際に粘土版に書くとこうなります。


※可読性と演出のため補正をかけています。もとは紙粘土なので白地

細かい部分の説明に先立ち、まずは楔形文字の特徴や字形ルールについて述べます。

楔形文字って?

人類が得たもっとも初期の文字のひとつで、主に古代メソポタミア地域で利用されていました。シュメール、バビロニア時代の神話や伝説はこの楔形文字で書かれており、いくつか重要なものが出土しています。

この文字は最初、商人や行政官などが帳簿をつけるために利用していました。メソポタミアの地では、文明が発達するにつれいわゆる事務処理というものが増えることになります。当然、それまでのやり方である口伝や人による事務には限界が出てきます。そういった時代の思考錯誤の中で、「文字」というものが発明されます。

そういった経緯があるため、初期の楔形文字はどちらかといえば表意文字と数字の組み合わせが多いものでした。

たとえば「牛 5 草 7」といった書き方ですね。しかし、徐々にそれはコトバそのものを書き記すためのメディアになっていきます。

今回、ターゲットにする楔形文字は「原始的な楔形文字のフェイズを越え、音素に置き換え可能でコトバの記述が可能になったところ」を想定しています。

楔形文字は粘土版に書かれる

この文字をデザインするにあたって、極めて重要なポイントがあります。それは、楔形文字は原則として「粘土版に植物や骨などの尖筆を押しつけて書く」ものだということです。

こんにちの私達が慣れ親しんでいる紙にインクや鉛筆で書くやり方とは、まったく常識が違います。

近い時代の記述媒体だと、石板やパピルスというものもあります。しかし、この二つも粘土版とは記述をする根本的なルールが違います。

三つの媒体の特徴をまとめると、このようになります。

  • 紙、パピルスとインクや鉛筆=乗せる、加える。媒体にプラスの力をかけることで書く
  • 石板=削る、減らす。媒体にマイナスの力をかけることで書く
  • 粘土版=変形する。媒体の形を変えることで書く

粘土版による記述は、媒体となる粘土に尖筆によって圧力をかけることで変形させ、そしてその変形の「跡」を記号として利用することで記述を実現するわけです。このことが、どんな字形を利用できるかといった点に密接に関わってきます。

字形のセオリー

楔形文字は、その記述法からくる物理的な制限によって利用できる字形にかなりの制約があります。

このように右、右下、下向きの楔を基本的に利用します。これはシュメール語やアッシリア語でもほとんど例外がありません。

なぜこういった字形になるのでしょうか?それは実際に粘土版に楔形文字を書いてみるとよくわかります。

右利きの人間が素早く粘土版に字を打とうとした場合、どうしてもこの三方向に集中せざるを得なくなります。右上、左下はギリギリなんとかなりますが、記述速度は落ちることもあってやはり頻繁には使われていません。

上向き、左上向きにいたっては非常に厳しいため全くと言っていいほど見られません。

楔形文字のデザインをする場合は、この点をしっかり含めておく必要があります。さもなければ、リアリティのある楔形文字をデザインすることはできないでしょう。

字形の書き分け

楔形文字の字形を決める要素は結局のところほぼ二種類しかありません。

  • 最初に押し付ける強さ
  • その後、線を引く長さ

この二種類と向きの組み合わせによって字を構成していきます。

写真を使って説明するとこうです。

まず(1)の強さで大きさを変えます。ここにほとんど力を入れなければ単なる線に近くなります。

短い字形にする場合は(2)のような角度ですぐに粘土版から離します。一方、長い字形にしたい場合は(3)のような角度で粘土版に押しつけて線を引きます。

このパターンをどう組み合わせていくかを決めることで、楔形文字のデザインを行います。

複雑な楔形文字

今回デザインした文字はシンプルなパターンばかりですが、実際の古代語はもっと複雑な字形がたくさんあります。

表意文字を含めるとパターンの数が大量に必要なため、複雑な字形を使わざるをえない事情が出てきそうです。 この点については、よりエクストリームに楔形文字を作る機会に説明することになるでしょう。

オリジナル楔形文字のデザイン

では、ここまで説明したところで最初に紹介したオリジナル楔形文字に戻りましょう。

見てわかるように、とても合理的なシステムに基づいてデザインされています。なので、古代らしい混沌とした字形はなくそういった意味でのリアリティはやや薄くなってしまっています。しかし、そこをこだわりはじめるとさすがにハードルが高すぎるためまずは単純な形からはじめるのがよいでしょう。

文字の種別(音素、音節、表意など)をデザインする

まず、最初に表記体系を決めましょう。

  • 音素文字。文字ひとつがaやtといった音素ひとつを表現する。代表的なものはアルファベット。
  • 音節文字。文字ひとつがkaやbaといった音節を表現する。代表的なものは日本語の仮名。
  • 表意文字または表語文字。漢字のように字が意味と読みを表現する。

主にこの3つもしくはその組み合わせで選ぶことになります。

今回はビギナー編ということで、音素文字つまりアルファベット的な文字を作ります。 必要となる文字の数が少なくてすむので、最初にやるならこれがもっとも楽でしょう。

現実世界の楔形文字は「表意文字+音節文字」の組み合わせが主流だったようです。これは「漢字+仮名」を使う日本語に近いシステムですね。日本語をよくご存じのみなさんはおわかりの通り、このシステムは字のパターンが多くなるので大変です。

もちろん漢字のような数は必要なく、数百程度だとは思いますがそれでも楔形文字のパターンでそれを実現するのは非常に大変です。なのでそれはもっとエキスパートになってから考えましょう。

文字のパターンを作る

体系が決まったら、実際の文字パターンを組んでいきます。

守ったほうがいいルールは二点。

  • 前述の字形ルール
  • 文字と文字と境界をはっきりさせる

これだけです。あとは自由でもよいでしょう。もちろん、より本格的にやるにはなぜその字がその形になったかというバックグラウンドも重要です。しかし、最初からそれをやろうとするときりがありません。

今回私が作ったものは、かなりロジカルにできています。

  • 母音は下向き長楔で始まる
  • 子音は右向き長楔で始まる
  • 数字は下向き短楔で始まる
  • 構文記号は右下向き短楔から始まる
  • 語を区切る記号は下に置く

これは日本語や英語といった発展済みの言語をわかった上のデザインなので、より古代的にするならもっと混沌としてもよいでしょう。また、アラビア語などまったく違う文化圏の文字からルールを借用するという手もあります。

また、最低限のルールを守ったらあとは造形的な"見た目"を重視するのもよいでしょう。

実際に書く!

デザインしただけでは意味がないので、実際に書いてみましょう。書く中で問題点や改善点にも気づいてくるはずです。


いかがでしょうか?アルファベット式であれば簡単に作れるのでぜひチャレンジしてください。そして私と楔形文字について語り合いましょう。

ちなみにこの楔形文字で書いた例文も独自のものですが、それについては別の記事で紹介します。


このエントリーをはてなブックマークに追加

ご覧頂きありがとうございます!よろしければこの記事の紹介、拡散にご協力ください!

タグ[空想神話のデザイン術]の記事

オーブン陶芸粘土を使って楔形文字粘土版をつくる ~ 焼きあがり編 2013/10/23 14:51 枇々木聖
気候区分を学ぶ(1) : 気候が神話に与える影響を加味したい 2013/10/18 19:10 枇々木聖
領域と経路に抽象化した空想の世界地図モデル 2013/10/11 20:52 枇々木聖
空想神話作りのための世界シミュレータ設計 2013/10/07 17:52 枇々木聖
オーブン陶芸粘土を使って楔形文字粘土版をつくる ~ 下ごしらえ編 2013/07/19 19:56 枇々木聖
多くの神話は「声の文化」に生まれ、「文字の文化」によって死んだ 2013/07/12 17:11 枇々木聖
空想言語メモ 最初の一歩 2013/07/09 17:05 枇々木聖
実践 オリジナル楔形文字のつくりかた ビギナー編 2013/07/08 19:26 枇々木聖
空想言語のデザインに向けて 2013/07/06 22:26 枇々木聖
楔形文字を書く ~ リベンジ編 2013/07/05 18:21 枇々木聖

タグ[空想言語]の記事

空想言語メモ 最初の一歩 2013/07/09 17:05 枇々木聖
実践 オリジナル楔形文字のつくりかた ビギナー編 2013/07/08 19:26 枇々木聖
空想言語のデザインに向けて 2013/07/06 22:26 枇々木聖