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13世紀の金属、鉱物観 前篇 : 原典で辿る錬金術の歴史 講義レポート 中世ヨーロッパ編(3)

錬金術


関連項目: 硫黄 水銀 ロジャー・ベーコン

ロジャー・ベーコンの著作、Radix Mundiから金属と鉱物に関するセクションを取り上げます。内容が多いため二回に分けて掲載していきます。

Roger Bacon (1219-1292)
from the Radix Mundi
Chapter 37 : Of the Original of Metals, and Principles of the Mineral Work.

このチャプターの概要

金属の起源と、自然による働きの原理についてが19段落に渡り解説されています。13世紀において考えられていた思想なので、相変わらず現代の科学から考えると意味不明です。
しかし、彼らなりのロジックや体系をもってそれを説明しようとしてことは見て取ることができます。また、この時代は引き続き始原の元素や神という存在に対する信仰が強いのでそのことも読む際に頭に入れておいたほうがよいでしょう。

記述については引き続き曖昧でぼんやりしていますが、アラビア時代に比べると飛躍的に明確な表現が多くなっていて読んでいてもわかりやすい。翻訳もラテン語から英語への訳なので翻訳プロセスは1段階。そのことも読みやすさの一因になっていますね。

アラビア時代からの変化や進化も感じながら読み進めていただけると幸いです。

四大元素の特徴と変化

自然の体は完全であり不完全であり、4つ元素が1つにまとまっている。すなわち火、空気、大地、水が神(God Almighty)によって一体に結びつく
大地と水は物質性、可視性を与える
火と空気は精気と不可視の力を与える
四つの元素が一体になることで他の物体になる
四大元素の変化はalter=部分的変化、change=全体的変化の二種類がありうる

アラビア時代に比べ、少し詳しい設定が追加されていますね。確かに大地や水は目に見えて触れることもできますが、火や空気は形がはっきりしません。空気はもちろん、火は視覚的にはみえるものの触れられるわけではないので、こういった考えに至ったのも理解できなくはないです。
わりと唐突に神によって~と出てくるのがこの時代らしいですね。オッカムの剃刀を適用するなら、その部分は省くべきという判断もできるでしょうが・・・。ちなみにオッカムの剃刀のもとになった概念を唱えたオッカムのウィリアム(オッカムは出身地)は、ロジャー・ベーコンよりやや後ろの時代のフランチェスコ会士です。オッカムの存命は1285-1347年なので、まる一代後ろの世代になりますね。
この時代の記述をみたオッカムが「いや、その説明は冗長では?」と考えたのかもしれません。

同質性と根源性の要求

多様ではだめで、単一の性質ではないといけない。作用と情熱を生み出せない
本性(性質)が一致する事物でなければ真の生成はない by アリストテレス
ニワトコの木や樫の木は洋ナシの実を結ばない
茨から葡萄を得ることもできない
アザミからイチジクの実はつかない
そのものの中に秘あるものからしか、秘を得ることはできない
つまり、石、塩、その他の異質なものから引き出すことはできない
また、ミョウバンが入ってくることもできない
テオプラストス曰く、哲学者は四大元素の場を塩(Salts)やミョウバン(Alums)で誤魔化すことはできない 鉱物の根源より取り出さなければいけない
物質は根源から完成させねばならない

様々な例を出して述べられていますが、性質が同じものでなければその働きができないので、根源的なものを取り出したいのであれば根源的なものと同質なものから取りだしなさいと言っているわけですね。ずっと出てきている硫黄と水銀に繋がっていくわけです。
また、塩やミョウバンへの言及も出てきます。どちらも他の物質への影響が強いものなので古代から重要視されてきたのでしょう。テオプラストスはギリシャ時代の学者(アリストテレスと同じくらい)なので、少なくともその頃には理解されていたわけです。

同じような内容を何度も繰り返し言っているだけに、よほどこの同質性と根源性は重要と考えられていたのでしょう。原典を読むことで、そういった構成からみた文脈も感じ取ることができます。

金属の発生

硫黄と水銀、すわなち鉱物の根源であり自然の原理であるこれらを大地の鉱山や大きな穴で自然が自ら生成する
それは山の孔や脈を流れるViscous water(粘性の水)である 体と実体(本質)がくっついた蒸気、雲が立ち昇る 立ち昇ったそれらは同質の大地へと反射する そして1000年かけて物質は固定される

四大元素と同質性の話に続いて、金属の発生原理についてが書かれます。ここはアラビア時代から大きく変わらず、硫黄と水銀が自然の大地で育まれ鉱物となりますよという話ですね。
もちろん、その際に一度蒸気となりその後固定されるというプロセスが想定されていました。具体的に1000年といった数字が出てくるなど、少し踏み込んだ内容にはなっています。


アラビア時代の知恵を継承しつつ、より詳細にしていこうという意志がみえてきました。ただ、数百年の時が経ってもあまり進展はしていないようにも見えます。現代のように情報伝達が高速ではないため致し方ない部分があるのでしょう。 後編に続きます。


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