元素の分離とTincture : 原典で辿る錬金術の歴史 講義レポート アラビア編(4)
関連項目: ティンクチャー ハーリド・イブン・ヤズィード
前回に引き続き、Secreta Alchymiæの内容です。今回はChapter 29の記述。文の量は22の半分から三分の一くらいですが、錬金術にとって重要な作業が書かれています。
【関連記事】
1:アラビアの錬金術事情
2:錬金術の思想とプネウマ
3:Magistery(自然変成力)
Khalid ibn Yazid (635-c.704)
from Secreta Alchymiæ
Chapter 29 : Of the Separation of the Elements.
四大元素と錬金プロセス
錬金術の過程における元素の分離についてが書かれています。ここでいう元素は現代でいう元素ではなく、「Earth(大地)」「Water(水)」「Air(空気)」「Fire(炎)」4つの元素のことです。
この章では、元素を分離しElixirを精製するプロセスについて書かれていますがまだ理解しきれていません。
原文で理解できたのは
- Cucubit, AlembickによってEarth、Water、Air、Fireを分離する
- 大地から水、火から空気を取り出し、それぞれ個別に保持する
- ビンの底にたまるオリを温かい火で洗浄する。黒さと濃さがなくなるまで。
- 濁っておらず、暗くなく、不浄でもない白いCalx(金属の燃えカス)を取り出す
- 稀薄で霊妙な元素のようなものが立ち昇る
- 作業は何度も繰り返しどんどん稀薄にしていきましょう
- Godに謝辞を
- 何もそれに混ぜてはいけない
といった部分だけで、結局どうすればいいのかはいまいち・・・。後半で文意がわからないところがたくさん出てきます。
ただ、稀薄なものほど霊的と考えられていたであろう事など当時の思想が伺える内容にはなっています。
元素の相互変換性
四大元素はそれぞれ完全に独立した存在ではなく、相互に変換が可能だったと考えられています。 これもコアになっているものは同じで、性質が元素の違いを生み出しているため性質を変えれば変換が可能という理屈です。
Tincture
現代では色味を意味する言葉ですが、錬金術の文脈では違う意味を持っています。 霊的原理としての意味合いを持ち、非物質的実体すわなち本質でありこれが物質に満たされる・・・との事。
・・・はい、何言っているか意味がわかりませんよね。別の視点からみると
- 物質はそもそも性質(形祖)を含んでおらず同質。質料と形祖は別物だから
- 空の入れ物に様々な性質(Tincture)が満たされることで、物質の違いが現れる
ということでしょうか。
金属でいうと、「鉄を鉄らしく見せている性質」「銅を銅らしく見せている性質」といったものが物質に宿ることで鉄は鉄に、銅は銅になるという話・・・だと私は解釈しています。
鉄=質料+鉄のTinctureということですね。
第五元素
この書には出てきませんが、余談として第五元素(アイテール)の話も出てきました。 究極、至高の原質であり宇宙と構成すると考えられていました。
すごくもやっとしたままですが、以上でKhalid ibn Yazidについては終了です。残念ながら、このもやっとした感じはこの後もずっと続きます。しかしそれが錬金術の文体でもあるので、そのもやっと感そのものをも私は楽しんでいます。 次回はJabir ibn Hayyanの著作に入っていきます。
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