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Magistery(自然変成力) : 原典で辿る錬金術の歴史 講義レポート アラビア編(3)

錬金術


関連項目: 自然変成力 ハーリド・イブン・ヤズィード エリクシール

講義の2回目では、ウマイヤ朝の王子ハーリド・イブン・ヤズィードが残した文献Secreta Alchymiæを読みました。ここでは本文を詳細に読むわけにはいかないので、大まかに何が書かれてるかと、本文中の重要なキーワードを解説する形式で進めます。

【関連記事】
1:アラビアの錬金術事情
2:錬金術の思想とプネウマ

Khalid ibn Yazid (635-c.704)
from Secreta Alchymiæ
Chapter 22 : Of the Difficulties of this Art.

このChapterに書かれていること

Of the Difficulties of this Art. 日本語でいうなら「この術の困難さについて」といった所でしょうか。ここでいう「この術」というのはもちろん錬金術のことです。この章では錬金術の困難さと、この術を学ぶためのにはどうあるべきかが書かれています。

大まかな構成は

  • 神への感謝を述べ敬虔な態度を示す
  • Magistery、Secret Stoneについて
  • ある弟子の話
  • 著者がこの書で何を伝えたいか
  • この術に必要なこと

となっています。

最初の部分は決まり文句のようなもので、神への敬虔な態度を示します。この時代の術は何らかの形で神的なものとの関わりがあるのでその点は注意が必要です。
この書を表わしたのは当然ながらイスラム教徒なのですが、比較的自由な宗派にいたため「イスラム教的なGod」ではない可能性があります。古代の書で「God」が出てきた際、「誰がどんな文脈で書いたか」を頭に入れておいたほうがいいでしょう。

次いで、Magistery、Secret Stoneについての話が入ります。Magisteryいついては後述します。

ここで少し話は変わって、ある弟子の話が例に出されます。この弟子は非常に敬虔であり、数多くの過去の著作を読み勤勉なわけです。しかし、この弟子をもってしてもこの術の真理に触れることはかなわなかったと著者はいいます。
その弟子は決して能力がなかったわけではありません。人の世では彼は賢者として称賛されるべき人である、とも言っています。著者は「人の世では賢者とされる者が敬虔に、かつ勤勉に求めてもこの術の真理には辿りつけなかった」とう事例をもってこの術の困難さを読者に伝えようとしているわけです。

さて、さんざんこの術の困難さについて話したところで著者がこの書でやろうとしていることが示されます。なんと「この術の秘密を公にする」というのです。それもこれまであった他の書よりはるかに深く、十分な内容で、と。

・・・と著者は申しているんですが、やっぱり意味わからないんですよね。というか、「秘密を公にしました!」と嘯いている書でこれだけ意味不明となるとこれまでの書は本当にどうしようもない内容だったんでしょう。そりゃ弟子も真理には辿りつけないです。

そして章の最後に、この術を実行するにあたり必要なことが説明されます。「Geometrical propotion」「火の加減」といった点が重要であり、適切なプロセスを経ないと全ては水泡に帰すのだ、と諭します。 全般的に「適切にやりなさい」という話なんですが、困ったことに何が適切かについてはあまり言及していないんですよね。それは察せよという話なのでしょうが・・・。

以上がこの章に書かれていることです。具体的な話は少なく、この術を取り巻く概要をこまかに説明している章のようですね。 後はこの章にあるキーワードを解説していきます。

Magistery(自然変成力)

この章で何度も「Magistery」という言葉が出てきます。それに講師は「自然変成力」という訳を与えています。 英語の辞書を引くと、
an agency or substance, such as the philosopher's stone, believed to transmute other substances.
となっています。
それは作用、媒介もしくは物質で、哲学者の石(=賢者の石)ともされる。他の物質を変化さしめると信じられていた・・・といった意味合いでしょうか。

これはまさに前回に出てきたプネウマの性質にも似通っています。錬金術師たちは様々な表現を使いますが、基本的に言っていることはほとんど変わりません。それは自然界の物質を変化させる「何か」があり、それにどうにかして辿りつこうという試みを様々な形で表現しています。

また、文中でハーリドはこのMagisteryが4つあると言っています。

  • Mineral Elixir
  • Animal Elixir
  • 別のMineral Elixirs(=残りの2つ?)

ただ、短い文であるので詳しいところは不明。最初の2つはただ名前があるだけです。後は二つはどう違うのかよくわかりませんが次のような効果を持つと言っています。

  • 単一鉱物のElixirではない
  • wash(洗浄)、cleanse(浄化)、purifie(純化)をする
  • 金を生成する
  • 大地の奥で自然発生するかのごとく働く

手前二つと後ろ二つが違うElixir(第3と第4)の働きかもしれません。

またElixirという言葉ですが、Elはアラビア語のal(AlchemryのAlと同じ)つまり英語のthe、ixirはアラビア語でPhilosopher's stoneを意味するようなので結局これも哲学者の石であるということです。

Philosopher's stoneとour Secret StoneそしてElixir

色々な言い方をしていますが、Magistery=Philosopher's stone=Elixirなので全て自然変成力もしくはそれを持つ物質を指しているようです。
Elixirは石だったり液体だったり色々といわれていますが、形態はあまり重要ではなく内在するMagistery(自然変成力)をどう扱えるかが重要なのだと思います。プネウマに関してもMagisteryについても、おそらくそのままでは人間の手に扱えるものではありません。それを何らかの形で人間による制御可能な状態にしたものがPhilosopher's stone=Elixirということなのでしょう。

Geometrical Proportion

ハーリドはこの章で適切な術を行うにはGeometrical Proportion、幾何学的な調和が重要だと言っています。これはおそらく術のための竈をどんな形にするかの話です。ギリシャ時代からの思想なのでしょうが、正しい行いや術には正しい形が必要であるという思想は錬金術においても重要視されているようです。

火加減、熱

また、術には形状だけではなくとくに火加減が重要だと述べています。これは錬金術の話でもよく言われるところですね。火を重要視する思想は古代の神話から連綿と続いているので錬金術にも引き継がれているのでしょう。


次回は同じ書のChapter 29に入っていきます。


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