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錬金術の思想とプネウマ : 原典で辿る錬金術の歴史 講義レポート アラビア編(2)

錬金術


関連項目: プネウマ

前回の記事に引き続き、錬金術の講義レポートです。

1回目:アラビアの錬金術事情
http://mythgraph.com/blog/51adb35a56b56f4b3c9c9ad5

今回は錬金術に関する著作の根底にあるものについて書いていきます。

あえてわかり難く書く

まず、錬金術の著作は全般的に「誰が読んでもわかるようには書かれていない」ということがあります。これは単純に読みにくい文章を書いてしまった、というものではなく"意図的"に「理解が困難になるように」書かれているということです。

現代の書物、特に実用書や技術書の分野においてはほとんど意味の無い行為ですが、錬金術的な思想では重要なことでした。なぜこうなってしまったかは色々な要因が考えられますが、結果として非常に難解な文献が残ることになりました。

そこには錬金術を学ぼうとする者へのフィルターとしての役目もあったかもしれません。

術師自身が「我々が求めているものが簡単であってはいけない」と信じたかったのかもしれません。

実は自分でもよくわかっていなくて、仕方なく煙に巻くような記述をするしかなかったのかもしれません。

ただ、そういった事情に逆らって「わかりやすく」書こうとした錬金術師たちもいます。しかし、それでもやっぱりよくわからないのですが・・・。何にせよ、それを読もうとする前には「そういうものだ」という覚悟で読むと苦しまないで済むでしょう。
意味がわからなくても過度に気にする必要がない、くらいの気持ちで取り掛かるのがいいのかもしれません。

ある物質を他の物質に変えることが理論的に可能と信じていた

この点は非常に重要です。これを信じていたからこそ、鉄を金に変えることもできると考えたわけです。
そしてここでいう変化とは現代でいう原子、元素ベルでの分解、再構築といったものではありません。 [ABCD]という物質を[ABC]と[D]に分解することで「人間の認識上、別のものに変化したように見える」という状態を生みだすことではなく。[ABCD]という物質を何らかの手段によって[WXYZ]に変化させられる、という思想です。

さらにそれが理論的に、再現可能な形でできると信じていたようです。

物質の変化には死と再生を要する

ある物質を腐敗させそこに新たな発生を起こすことで変化が可能と考えられていました。つまり、ある物質に死を与え、それを再生する際に別のものに変化させるという寸法です。

この部分でも現代の物質に対する考え方と大きな違いがありますね。

媒介する「プネウマ(pneuma)」の存在

さて、物質を変化させるにはただ物質を腐敗させ、死を与えるだけではいけません。そこで媒介となるのが「プネウマ」です。
このプネウマはギリシャ哲学から発生した言葉で、「生命の息吹き、精気、霊」のことを指しています。Spiritus、Spiritの元になり、インドのPranaといった言葉とも近いものがあります。

そして講師曰く、このプネウマとは「霊妙であるが、完全に非物質的ではない力(媒介)」であるとの事。

「霊妙であるが、完全に非物質的ではない力(媒介)」・・・理解に苦しむ言葉ですね。
非物質的な霊とは違い、僅かながら物質性があるということを指しているのでしょうか。しかし、「物質である」とも言っていないので中間的なものなのかもしれません。
概念としては、「気」などにも近いものがあるとの事。そもそもの意味も「息吹き」ですしね。

またこのプネウマは地上の生物に内包していると考えられていました。錬金術的には金属も生きている(=生物)ので、当然プネウマを含んでいます。

このプネウマを媒介にすることで、物質を変化させることができます。
つまり、錬金術とはこのプネウマを制御するための術とも言え、この先の著作でもそれを前提としているであろう記述が度々出てきます。

それにしても錬金術って言葉、本当によくない訳ですね。もとのAlchemyにはそんなニュアンスはほぼ無いのに・・・。便宜上この先も錬金術と記載しますが、字面でのイメージを取り除くようお願いします。。。

質料 - 形祖 - 精神の関係

プネウマとかかわる概念として、質料 - 形祖 - 精神の3要素があります。
これが錬金術が自然界の変化をどうとらえていたか、という思想に大きく関わってきます。

まず、質料は物質であり「質量のある、形がはっきりとしたもの」のことのようです。
形祖は性質のことで、物質はこの性質の違いによって「違う物質」として現れます。
精神は意思や霊的なもので、これはおそらく非物質なものと思います。

自然界に遍く存在する物質は「なんらかの形祖を持つ質料」であり、物質の変化はこの形祖の変容によって起きるわけです。
当然ここでもプネウマが重要な役割を果たすことになります。

精神がどう働くのかに関してはよくわかりません。正確にはこの講義ではまだその点について踏み込んでいません。ほかの文脈における精神を説いても意味はないので、ここでは「要素の1つとして精神がある」という話にとどめておいてください。


以上が錬金術の思想に関する話です。
ベースとなる点がわかったところで、次回は著作の内容に入っていきます。


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